8番出口という駅がある。
そこは様々な怪が異変を起こしており、調査しなければ脱出できないという。
今日は、そんな事件に巻き込まれた二人の少年の物語である。
「……何なんでしょうか、ここ。どうして僕達が、ここにいるんでしょうか?」
「これほどの異変で怯えちゃダメだよ」
奇妙な駅に飛ばされてしまったのは、スマブラメンバーのシュルクとピット。
どうやら、ある事件が原因でこの駅に飛ばされてしまったらしい。
パルテナがいないため奇跡が使えず、未来視(ビジョン)も使えず、さらには武器も没収されている以上自力で脱出するしかなかった。
エイト歯科医院やアルバイトパート募集中など、たくさんの広告が貼ってある。
通行人は駅を歩いているものの、ピットとシュルクには見向きもしない。
ピットとシュルクはしっかり周りを観察し、おかしなところがないかを確認した。
「……何だろう、あれ」
ふと、ピットは壁の紙を見つめる。
そこには、このような文字が書かれてあった。
異変を見逃さないこと
異変を見つけたら、すぐに引き返すこと
異変が見つからなかったら、引き返さないこと
8番出口から外に出ること
「どういう事ですか?」
「つまり、この駅から出るためには、しっかり調べる必要があるみたいだ」
「そうするしかありませんよね」
張り紙から曲がり角を抜けると、目の前に「1」と書かれた看板があった。
後ろには「0」と書いてあり、どうやらこの辺には異変がないらしい。
辺りを見渡すと、ダクトの排気口から、不快な臭いのする黒い液体が落ちていた。
「ま、待ってください、シュルク! 変な臭いがしますよ!」
「これは明らかに異変だね、引き返さないと……」
異変を見つけたら、すぐに引き返すこと。
ピットとシュルクはそれに従って、おかしな1番出口をすぐに引き返した。
「なんなんですか、これ……」
「どんな奴が起こしているのかよく分からないけど、おかしなところを探して、違うと思ったら引き返せばいいと思うよ」
「流石、シュルクですね」
シュルクの案内によってピットが駅を歩くと、2と書かれた案内看板を見つけた。
二人はしっかりと、壁や天井や扉やらをしっかり調べ、通行人の顔も調べた。
どうやらここには異変は無いらしく、二人は安心して通路の先へと進んだ。
案内掲示板には「3」と書かれてある。
二人は少しだけ慣れてきたが、こういう時こそ、異変を見逃す事があるだろう。
「どうやら、ちゃんと調べないと解決しないみたいだね」
「うん、きちんと調べなくちゃいけませんね」
曲がり角を曲がって通路を進もうとすると、目の前に二人のスーツ姿の男性が立っていた。
「おかしいな、僕達が出会った通行人は一人のはずなのに……」
「明らかに異変ですよね、引き返しましょう」
シュルクに言われてピットは迷わず引き返す。
どうやら正解だったようで、案内看板には「4」と書かれていた。
もう少しで折り返しなので、二人は気合を入れて、4番出口を調査した。
おかしなところがあると、ピットは軽く信じながら。
二人は気合を入れてカメラ、看板、広告、通行人、天井、扉を調べる。
どうやらここには、異変はないようだ。
「よかった、大丈夫だ……」
「待ってくれ!」
「えっ、どうしたんですか、シュルク!?」
シュルクに言われて立ち止まると、ピットの隣から音がした。
手前から三番目の、清掃員詰所と書かれた扉がひとりでに開いたのだ。
扉の向こうは漆黒で、何もないようだった。
「あ、ああっ、あ、あの扉、何だか僕達を引き込みそうですよ……! と、とにかく引き返しましょう!」
大急ぎで二人が引き返すと、蛍光灯の光に焼かれたらしく二人は少し疲れる。
だが、半分は通ったはずなので、ここで間違えるわけにはいかなかった。
ピットとシュルクは曲がり角を曲がり異変が起こるだろう通路へと顔を覗かせる。
そこは、いつも以上に白かった。
何故なら、二人の視界に映るはずの扉が一つ、壁になっているからだ。
「扉が……壁になってる……?」
そこには何と書かれていただろうか。
異変を調べまくっていたピットとシュルクには何も分からず、黙って引き返した。
いよいよ二人は「6」と書かれた黄色い案内看板を横切る。
「ふぅ……疲れちゃいましたね」
「でも、もう少しで出口だと思うよ。もう少しで脱出できる……気を抜かず進もう」
二人は異変を探すべく、気を集中して周りを探索した。
「ここには何もなさそうですね」
「……果たして本当かな? ほら……」
シュルクはふと、足元に目を向ける。
視力を失った者のための点字ブロックが、全て苦悶の表情に変わっている。
何故こうなっているのかは分からないが、ピットはしげしげと地面を見た。
「これは、何ですか?」
「点字ブロックっていう、目が見えない人のためのタイルなんだよ。
本来なら丸や棒が描かれるんだけど、ほら……全部、人の顔になってる」
「あ、ホントだ! 気が付きませんでした!」
「さあ、これも異変だから引き返そうね」
「はい!」
もう少しで脱出できると思った二人は、しっかりと調べつつ、異変がないのを確認して先に進む。
ついに、「8」という数字が、ピットとシュルクの横に現れた。
どれほど待ち望んでいたか、どれだけ目を凝らして歩いてきたか。
二人は疲労を感じ取りながら、点字ブロックの進む先を目指した。
しかし、最後の出口という割には、何の異変も見当たらない。
安心して先へ進もうとしたシュルクの中に、忠告の言葉が響き、急に足を止めた。
何かを見落としている――そう感じたシュルクは、引き返そうとした。
「……!!!」
すると、頭上の白地の案内看板に「引き返せ」という文字が大量に書かれていた。
異様なまでに繰り返されるその言葉に、シュルクは背筋が凍った。
もし、この警告に気づかず、このまま進んでいたらどうなっていたかを感じる。
「ど、どうしたんですか、シュルク!?」
「……引き返せと言われたら迷わず引き返すんだ。ルールは守らなくちゃ」
シュルクはピットの手を引いて引き返す。
ピットは何が何だか分からないままシュルクに従った。
ふと、二人の目の前に、階段が現れる。
上から光が差し込み、人々が歩き回っている。
ようやく、二人はこの8番出口から脱出できるのだ。
そして、ピットとシュルクは階段を歩き出した――
「あれ、ここは……どこ?」
「僕達、今まで何をしてたんですか……?」
気が付くと、ピットとシュルクはスマブラ屋敷の医務室のベッドで寝ていた。
あの駅で怖い思いをした事は、ピットとシュルクは一切覚えていなかった。
二人が寝ているベッドに、ドクターマリオとナースピーチがやってくる。
「君達はさっきから、ず~っとここで寝てたんだよ。乱闘で無茶をして重傷を負っちゃったんだよね」
「まあ、乱闘中は怪我しない代わりにその分の痛みは感じるけどね」
「「あぁ~……」」
そういえば、今日の大乱闘はピットとシュルクが参加してたっけ、と思い出す。
あの時は無茶をし過ぎてお互いに蓄積ダメージが増えすぎてしまい、
結局二人ともキャプテン・ファルコンに吹っ飛ばされて彼が勝った試合。
ダメージが大きすぎて気を失った二人は、8番出口の夢を見ていたらしい。
「よかったぁ……本当に、無事だったんですね」
「だけど今度から無茶はしないようにね。医務室が窮屈になるかもしれないからね」
「はぁ~い」
こうして、ピットとシュルクのちょっとした騒動は終わった。
監視カメラのポスターに描かれたあの目の事を、何故か覚えたまま――