第1話 裏遊園地の噂
とある人物達の会話。
「ねぇねぇ、知ってる? 今度行く遊園地の話」
「遊園地? 来週遠足で行く遊園地でしょ? 観覧車とか、水の乗り物とか、アトラクションがた~くさんある、あの……」
「そうじゃなくって、裏遊園地の話だよ」
「裏遊園地?」
「なんかね、遊園地に入った人の中で選ばれた人が、何かをきっかけに裏遊園地に飛ばされちゃう事があるんだって!」
「裏遊園地って普通の遊園地と何が違うの?」
「よく知らないけど、すっごく怖いんだって! 誰もいないところで強制的に乗り物に乗せられたり、その遊園地に閉じ込められて一生出られなくなったり……」
「えっ! めっちゃ怖いじゃん……。これから行くのに、どうしてそんな怖い話するの~」
「ごめん、ごめん。でも不思議なんだけどね、その遊園地に行って帰ってきた人は好きな人と両想いになれるって話もあるの」
「行方不明になるかもしれないけど、好きな人と両想いになれるって事? さらに意味が分かんないよ……」
「まっ、あくまでウワサだから本当かは分からないけどね」
「な~んだ、ウワサかぁ」
「あっ、今、安心したでしょ?」
「ふふ、ウワサなら安心した」
「本当に起きるかもよ?」
「そんな事ないって。それよりさ、遊園地着いたら何に乗る?」
「やっぱりジェットコースターは乗りたいよね」
「さぁて、今回のターゲットは誰にしようかな」
ぬいぐるみの目が、少し光ったような気がした。
「よし、着いた。たまにはこういうのも悪くないな」
冒険者の一人、ジャミルの目の前には、大きな遊園地がある。
「わぁ……! 観覧車ですわね!」
「ジェットコースターもあるみたいだぜ」
今日は休暇なので、ジャミルはテティスと一緒に遊園地にやってきた。
モニカはパートナーだが、冒険者仲間であるため、特に気にしていない。
ジャミルとテティスは一応、タマゴを作れる組み合わせだと言っておく。
二人が入場ゲートを通って遊園地の中に入ると、楽しげなBGMが聞こえてくる。
コーヒーカップに乗って楽しんでいる人や、マスコットの着ぐるみと写真を撮って喜んでいる人を見て、テティスが目をキラキラさせた。
「最初は何に乗ろうかしら……あ、でも、わたくし、足が……」
テティスは足が特殊なので、自由には動けない。
とはいえ、ジャミルも休暇が来るのを、まだかまだかと指折り数えていた。
早くメリーゴーランドに乗ったり、ヘルシー料理を食べたりしたいと思っていた。
そんな事をジャミルが考えていた時。
「あそこだけたくさん人がいますわ。何かしら?」
人だかりの中心には、この世界にいないはずのクマのマスコットが風船を持って立っていた。
「わぁ~、可愛いですわね。風船、持ってますわよ」
「おい、待て! 何が起こるか分からないから、警戒は怠るなよ!」
ジャミルはテティスに警戒を命じた。
「分かってますわよ。ジャミルさん、わたくし達も行きますわよ」
「でも、警戒はするぞ」
ちらりと皆の中心にいるクマのマスコットを、ジャミルは警戒しながら見る。
クマのマスコットは全体がピンク色で、ギザギザの爪があり、目は赤く怪しく光っていた。
ジャミルがレイピアに手をかけると、クマのマスコットはいきなり歩き出した。
マスコットは真っ直ぐに、ジャミルの目の前まで来ると、そこで立ち止まった。
「誰だ、お前は」
ジャミルが警戒すると、そのマスコットは何も言わず、持っていた風船をジャミルに差し出した。
風船の紐の下には、長方形の紙がくっついていた。
その紙には裏遊園地入場チケットと書かれている。
「ジャミルさん、風船貰ってますわ。でも、それは……」
「ああ分かってるさ、どうせ罠だろ? だからとりあえず、この風船を……」
ジャミルが風船を手放そうとした瞬間、彼の周りを真っ黒な光が覆った。
「ジャミルさん! あぁ……消えてしまいましたわ。どうにかして、彼を助けなければ……」
テティスは慌てながらも、ジャミルを助ける方法を考えた。