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第2話 閉じ込められた冒険者

「おい……」

 気が付くと、テティスも目の前にいたはずのクマのマスコットもいなかった。

 動いていたアトラクションも、全て止まっている。

 しかも、先程までの陽気な雰囲気とは違い、辺りは夜のように薄暗く、どんよりとしたBGMまでかかっている。

 乗り物は派手なネオンで照らされていた。

「おいおい、何が起こったんだ? おーい、テティスー! いるなら返事しろー!」

 ジャミルはテティスの名を呼ぶが、彼女の声はしなかった。

 ジャミルは走って出入口まで向かってみたが、ゲートには高い柵がつけられていて、外に出る事はできないようだった。

「こじ開けようかな」

 ジャミルは手先の器用さを生かし、ゲートをこじ開けようとしたが、それらしき鍵は見当たらなかった。

 しかも、入口の看板には「裏遊園地」と書かれていた。

 風船のチケットに書いてある文字と同じだ。


「裏……ああ、ダンジョンだな」

 風船を受け取った瞬間、ここに飛ばされたとジャミルは冷静に判断した。

 すると、誰かの声が聞こえてきた。


「もー、あたしの魔法が通用しないんですけどー!」

 何かが燃える音がして振り返ると、出入口の壁を魔法で燃やそうとしている少女、ミリアムがいた。

 壁は、うんともすんとも言わない。

 ジャミルがミリアムを呼ぼうとした時、誰かが肩をポンと叩いた。


「ジャミル、そこにいたのか」

「おう、モニカじゃないか」

 ジャミルの後ろには、彼のパートナーのモニカがいた。

「お前もここに来たようだな」

「ああ」

 するとさらにもう一人、向こうからジャミルの仲間がやってくる。


「よかった、ジャミルさんは無事でしたか!」

 薙刀と神聖魔法で戦う巫女、トモエだ。

 トモエはジャミルに向かって少々申し訳なさそうに言う。

 そしてさらにもう一人、ブツブツと何かを言いながら、こちらにやってくる人がいた。

「まったく、一人でゆっくり休めると思ったのに、とんだ災難だねぇ」

「ノーラか」

 文句を言いながらこちらにやってきたのは、小柄な女戦士ノーラ。

 彼らは、冒険者パーティー「水底の冒険者」の一員である。

「どうして私達だけ、こんなところに来させられたのだろうか」

 モニカの疑問にジャミルは答える。

「風船を持った瞬間、俺達はこの遊園地に来た。テティスともはぐれてしまった」

「私もだ。この変なチケットがついてた」

 モニカが、風船についていたチケットをジャミルに見せてくる。

 確かに全員、手には同じ色の風船とチケットがあった。

 あの風船を受け取った事で、この不気味な空間に来てしまったらしい。

 しかし、ジャミル達は手馴れた冒険者なので、あまり動揺しなかった。

「風船は冒険に使えそうだと思ったのにな」

 不満そうなミリアムに、ノーラも付け加える。

「アタイもだよ。入場してすぐに武器を鍛えようと思った時、なかったはずの風船が木にくくられていて、邪魔だから触った瞬間、ここだったよ」

「どうやら元凶はこの風船みたいですね」

「あの壁、魔法で壊せないかしらね」

 出入口の壁を魔法で壊そうとしているミリアムに対して、ノーラが落ち着いて言う。

「アンタの魔法が通じない以上、こっちの武器も多分、通じはしないよ」

「ふーん」

 ミリアムは、あまり納得がいかない様子だった。

「今は、みんなで出る方法を考えますよ」

「まずはこの遊園地を見て回って、脱出の方法を探せば何とかなるかもしれないからな」

 すると、遊園地の上に聳え立つ、大きなモニターの電源が入った。

「なんだ、あれは!」

 モニカが指差す先を見てみると、モニターに風船を渡してきた、あのクマのマスコットが現れる。

『冒険者の皆さぁ~ん、裏遊園地へようこそ~!』

 マスコットは少し高めの声で、ジャミル達に呼びかけた。

『今日は皆さんを特別に、この裏遊園地に招待しました~』

「あいつ、あたしに風船を渡した奴よ!」

「早くここから出さなきゃ、アンタをぶちかますからね?」

 皆の言葉を無視して、マスコットは話し続ける。

『わたしはこの裏遊園地のゲームマスターです』

「じゃあ死……」

「待て、あいつを倒しても出られるかどうかは分からないぞ」

『そう、その通り。皆さんはわたしの言う事に従わないと、ここを脱出する事はできません!』

「どういう事だ」

 モニカの問いかけに、ゲームマスターはゆっくりと答えた。

『今からルールを説明しますので、ゲート近くの籠に入っているヘッドフォンをつけてください。女性の方は赤、男性の方は青のヘッドフォンをつけてくださいね』

「……ヘッドフォンはこれか」

 モニカがゲートの近くに置いてあった籠を見つけて、皆の下に持ってくる。

 ジャミル達は迷わず、そのヘッドフォンを耳につけた。


『裏遊園地にようこそ』

 ゲームマスターの声がヘッドフォンから流れ出す。

『今からこの遊園地を脱出する方法を教えます』

 全員、真剣な顔で説明を聞いている。

『この遊園地を脱出する手段はただ一つだけ。それは……ここの遊園地の中にある三つのアトラクションを体験して、チケットを獲得する事。

 チケットを三枚獲得するまでは、絶対に出られません。チケットが揃ったら、観覧車前に来てくださいね~! それでは裏遊園地を楽しんで』

 ブチッと電源の切れる音が聞こえると、ジャミルのヘッドフォンは、それから何も聞こえなくなってしまった。

(あー、間違いなく、罠だな。絶対あいつ、俺らをただで逃がす気はないだろ)

 脱出するには、三つのアトラクションを体験すればいいだけ……というわけにはいかない、とジャミルは判断した。

 すると、トモエが聞き終わったのかヘッドフォンを外す。

 その後に続いて、他の女性冒険者達もヘッドフォンを外した。


「三つのアトラクションに乗ったら、脱出できる……わけじゃなさそうだよな」

「お前のカンは正しい」

 モニカが返事をすると、トモエがジャミルの前にやってきて、薙刀を構えた。

「ジャミルさん、私達は冒険者です。共にこの裏遊園地を攻略しましょう」

「ま、そうだな」

 ジャミルもレイピアを構えて、冒険に備えた。

「冒険者は、これくらいで怯みはしないからね」

「ミリアム……」

「あのゲームマスターとやらを、ギャフンと言わせたいね!」

「ノーラ……」

「大丈夫、私達は仲間だ。必ず脱出できる」

「モニカ……」

 非常にサバサバしたモニカ、ミリアム、ノーラは、やはりジャミルにとって頼りになる仲間だ。

 ジャミル以外は皆、女性だが、意志はしっかりしていた。


「では、何に乗るか決めるために色々見てみますよ」

 トモエの声を合図に、ジャミル達は裏遊園地と呼ばれる遊園地の中を歩く事にした。

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