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第3話 恐怖のジェットコースター

 冒険者五人で歩いていると、大きなジェットコースターが目の前に見えてきた。

「へえ、結構なデカブツじゃないか」

 ノーラが上を向いて呟く。

 彼女は小柄なので、余計に大きく見えてしまう。

 レールは複雑に入り組んでいて、大きな山になっている部分もある。

「こういうのに乗りたい物好きはいるのかね」

 ここまで高いジェットコースターは、ジャミル達は未体験だ。

 そもそも、ジャミル達は全員、飛べない。

 すると、モニカが溜息をつきながら言った。

「ここまで歩いてばかりで、疲れてしまった。早く乗って確かめるしかあるまい」

「それも手ね。ジャミルの勘が本当か、早めに確かめる必要があるわ」

 ミリアムの言葉に、モニカも同調する。

「俺達ならちゃちゃっといけるだろ」

「そうですね。じゃあ、これにしましょうか」

 皆の意見が一致した事もあり、ジェットコースター乗り場に向かった。

 乗り場の前の看板には『仕掛け裏ジェットコースター』とあった。

 そして、そこには説明のようなものが書かれている。


 こちらは二人乗りです。

 男性の方は座ったら終わるまでずっと乗っていただきますが、女性の方はそれぞれの乗り換え地点で待機し、順番に乗ってください。


「……おいおい」

 ジャミルは愚痴を吐き、モニカ達はすぐに順番決めの話し合いになった。

「最初は私だ。ジャミルのパートナーだから、そっちの方が安心だろう?」

 つまり、女性冒険者とそれぞれ一回は乗らないといけないらしい。

「じゃあ、他の奴はどうするんだい?」

 こうして、残りの三人は話し合い、モニカ、ミリアム、ノーラ、トモエの順番に決まる事に決まった。


「乗り換え地点で待ってますね」

 トモエがジャミルに向かって手を振る。

 他の女性冒険者達も、それぞれの乗り換え地点へと向かった。

 ジャミルはモニカと共にジェットコースターに乗り込み、バックパックを座席の下にしまう。

 そして安全バーを下ろすと、ジェットコースターはゆっくりと動き出した。


「やっと、二人でゆっくり話せるな」

「パートナーなんだけどな」

 ジャミルは目の前の安全バーを握りながら、モニカの声に反応する。

「思えば、お前が子供のためとはいえ、色々と盗んでいた事は放っておけなかったな」

「……盗んだのは金持ちのところだけだけどな」

 会話しているうちに、スピードがどんどん上がっていく。

「おい、なんか速くなってるぞ!」

「大丈夫か?」

「ああ、平気だ!」

「私もだ」

 ジャミルとモニカはお互いに奮い立たせる。

 それと同時に、座席の前につけられていたモニターの電源が入る。

 そこには、文字が書かれていた。


【この後、分かれ道。どちらかは道がなく、落下。行きたい方向に体を傾けろ】


「ふざけんなよ……」

「落ち着け、ジャミル。こういうのには、何か違和感があるはずだ」

「違和感ね……あ、もしかして、あれか?」

 ジャミルはモニカの言う通り、違和感を察知しながら分かれ道を進む。

 冒険に慣れている二人の前では、仕掛けなど朝飯前だった。

 当然、ジェットコースターのモニターに大きく【ゲームクリア】と表示された。

 その後、ジェットコースターはゆっくりと速度を落としていった。


「これくらい朝飯前だな」

「当然だな」

 ジャミルとモニカには、簡単だったようだ。

 ジェットコースターがゆっくりと停車すると、乗り換え地点でミリアムが待っていた。

「では、私は交代する。無事で帰ってこい」

 出口側に降りたモニカの言葉に、ジャミルは頷いた。

 そして、ミリアムが反対側から素早くジェットコースターに乗り込んだ。

「よろしくな、ミリアム」

「いくわよ!」

「あ、そうだ。さっき、ジェットコースターが暴走したぞ」

「そんなの燃やせばいいじゃない!」

 相変わらず、ミリアムは魔導師なのに結構、思考が単純だ。

「おい、あまり隅に行くと落ちるぞ」

「分かってまーす!」

 すると突然、ジェットコースターが揺れ出した。

 スピードはそこまでではないが、上下に跳ねたり、ガタガタ揺れたり、油断したら落ちてしまいそうだ。

「う、酔いそう……」

 ミリアムの顔が少し青くなっている。

 そのうちに、ジェットコースターが大きな警告音を鳴らした。

―ブーブーブー

「なんだ?」

 ジャミルが驚いて辺りを見回すと、ジェットコースターのモニターに「エラー」と表示されている。

「調子が悪いのか?」

「うーん、じゃあ……」

 ジャミル達が乗っているジェットコースターが、目の前の大きな山になっている道を上がり始め、どんどん上っていく。

「ね、ちょ、もしかしてこれ、落ちる!?」

 ミリアムは不安になって、少しだけ顔を外に出し、線路の先を見ると、さらに顔が青くなった。

「ちょ、前見て! 落ちた先の線路がない!」

「あー、まずいな。空を飛べな……待て、お前魔法が使えるだろ?」

「そうでした! えぇいっ!」

 ミリアムが呪文を詠唱すると、ジェットコースターはゆっくりと宙に浮かんだ。

「……で、どうするんだ?」

「しまったぁ! その先を考えてなかったぁ! とりあえずバリア、バリア!!」

 ミリアムが魔法でバリアを張ると同時に、物凄い音と共にジェットコースターは墜落し、破壊されてしまった。

 幸い、バリアのおかげで怪我はなかったが、ジェットコースターが壊れたため、それ以降は誰も乗れなかった。


「……派手に壊しちまったな」

「どうするの……?」

 ジェットコースターを壊し、チケットが貰えないと落胆するミリアムだったが、その時、ノーラがハンマーとチケットを持ちながらジャミル達のところにやってきた。

「おーい、チケットはアタイが貰ってきたよ」

「ノーラ、やるじゃないか」

 どうして手に入れたかは不明だが、とにかくノーラのおかげでチケットを一枚獲得できた。


「何となく仕組みが分かりました。どうやら、ゲームマスターが言っている事は本当らしいです。

 となると……この危険な乗り物に後、二回乗らないと、一生この遊園地に閉じ込められるって事になりますね」

「任せとけ! 水底の冒険者の底力、見せてやる!」

 ジャミルはやる気満々で、レイピアを構えた。

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