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第4話 危険すぎる激流下り

 次にやってきたのは「プカプカ裏ボート」と書かれたアトラクションだった。

 水の上をボートで進み、ゴールを目指すアトラクションのようだ。

 辺りは川に見立てられていて草や木が生えている。

 乗り場には、大きなボートが停められていた。

 前に二人、後ろに三人が座れるようになっている。

「今度はみんなで乗れるみたいだな」

 案内板にはこう書かれている。


 こちらは五人乗りです。

 ロッカーに貴重品を預けてからご乗船ください。


「何ですか、武器が使えないんですか?」

「アタイの力を削ぐためかい?」

 トモエとノーラは不満タラタラだ。

 彼女らは武器で戦うので、没収されたら不満なのは当然だろう。

「……さっさと乗るぞ」

 渋々ロッカーに荷物を置くと、ジャミルはリーダーとして前に乗った。

 トモエとノーラは文句を言いながらも、渋々後ろの席へと乗り込んだ。

 パッと見た感じでは普通のボートに見えるが、やはり冒険者の目は誤魔化せない。

 水が流れ出し、ゆっくりと進み始めた。

 周りに草や木が生えているからか、夜のジャングルのようで、ジャミルには気分がいい。

「何だか空気がいいな」

 ジャミルが息を吸い込むと、湿った草の匂いがする。

「そうだな。ジェットコースターよりは激しくない。案外すぐ終わるかもな」

 モニカの言葉が後ろから聞こえて、ジャミルはほっとしていた。

 川の流れに沿って、ゆっくりと進んでいくだけ……かもしれない。

 しかし、その期待はすぐに打ち消された。

「雲の動きが早いですね……何だかイヤな予感がします」

 トモエが空を見ながら言う。

「天気、分かるのか?」

「私、巫女ですから。……雨が降りそうです。モニカさんの電気は危険でしょう」

「確かに、水位が上がったら流されるし、何よりミリアムとトモエは水に弱い」

「……申し訳ありません」

「悪かったわね、あたしが炎系で」

 ミリアムとトモエが謝る。

 話をしているうちに、水の流れが大きく乱れた。

「しっかり掴まれ!」

 ジャミルの言葉に、皆は必死にボートの手すりを掴んだ。

「ボートにも雨水が溜まってきてるぞ。沈んじゃう可能性もあるんじゃ」

「え、そんな……」

「仕方ない……私が舵を切る。交代してくれ」

「モニカ、操縦は得意なのか?」

「私は伊達にレンジャーではない。風と水の流れを見ながら進む!」

 ジャミルと入れ替わったモニカが、先頭に備えつけられている舵を切る。

 川幅に沿って、ぶつからないように上手く操縦してくれているが、刺すような雨と強風のせいでボートは左右に激しく動く。

 ミリアムとトモエは、必死に水を避けようとしていた。

 少しでも気を抜いたら、ボートから落ちてしまいそうだ。

 その時、ドンッ! と大きな衝撃が響いた。

「ひゃ!」

「マズい、ぶつかった……」

「ミリアム!」

 崖にぶつかった反動で、ミリアムがボートから落ちそうになる。

 しかし、ミリアムは魔法を使って身体を浮かせ、何とかボートに戻った。

「危なかった……」

「冷や冷やさせるなよ」

「ほら、早く行くぞ。嵐を通り抜けるんだ」


 それから嵐は止み、川の流れも緩やかになった。

 川幅に沿いながら、モニカの操縦で進むと、元いた場所が見えてきた。

「よーし、やっとゴールだ」

 乗り場まで戻ってくるとボートは自然に停止した。

 ジャミル達は、ゆっくりとボートを降りる。

「チケット、置いてあるね」

 ノーラが、受け付けの机に置かれていたチケットを見つける。

「よかったねぇ、ジャミル」

「ああ、みんな無事でよかったな」

 これで、チケットは二枚目だ。

 後一つ、乗り物に乗れば、この遊園地から脱出できる……とはジャミルは思わなかった。

 ジャミル達は冒険者なので、これくらいはただの冒険である。

「余裕そうだな」

 モニカがジャミルの顔を見て、問いかける。

「当たり前だろ。水底の冒険者は、へこたれないからな」

「当然だな」

「脱出するわよ! あたし達ならできるはず、ううん、絶対にできる!」

 ミリアムの言葉にジャミル達はしっかりと頷いた。

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