第6話 真っ暗闇のおばけ屋敷
「元気をチャージ」したジャミル達は、遊園地をぐるりと一周周り、どのアトラクションに乗るかを考えていた。
巨大ブランコやコーヒーカップのように回る激しい乗り物から、足でペダルを漕いで線路を進んでいくゆっくりした乗り物まで、様々なアトラクションがある。
しかし問題は、ジャミル達が思っている通りに進まない事だ。
ここは裏遊園地だからだ。
「何に乗っても暴走すると考えたら難しいですね」
水の上を進む穏やかそうなアトラクションでさえ、激しくなったからだ。
「ふむ……」
モニカは顎に手をやり、何かを考えていた。
「それなら……自分達のペースで進めるものを選ぶのはどうだ?」
「いい考えだな、モニカ」
今まで、どれも自分達のペースで進む事はできなかったはずだが、モニカには考えがあるようだ。
「つまり、乗り物に乗るんじゃなくて、自分達の足で進んでいける体験型アトラクションを選ぶんだ」
「なるほどねぇ。やるじゃないか。つまり迷路のような、自分達の足で歩いてゴールまで行ける奴って事だろう」
「そういう事だ」
今まで急にスピードが速くなったり、激しく揺れたり、水に流されかけたりをしてきた。
しかし自分達の足で進む事ができるのであれば、スピードは調整できるし、暴走する事はないはずだ。
「よし、賛成です!」
トモエが賛成すると、皆も頷いた。
「じゃあ、早速行くぞ」
モニカがそう言うと、歩き出す。
目の前には、ボロボロの病院。
常人なら背筋が寒くなるBGMが流れていて、窓には血のような赤い手形がついている。
そして、入口に大きく書かれているアトラクション名は「迷宮裏病院」。
「……そうだな、冒険者の腕が鳴るな」
ジャミルは乾いた笑みを浮かべる。
「脱出ゲーム的なものだと問題が解けなかった場合、そこに閉じ込められてしまう可能性がある。かなり難易度を上げられてもたまらない。
そういう点を考慮すると、おばけ屋敷が一番だ」
「俺達、武器を持ってるしな」
冒険者なら、油断しなければ余裕なはずだ。
ジャミルはもう一度、おばけ屋敷の入口を見つめた。
今は使われていない病院は、明らかに何かが出そうだが、ジャミルは動じない。
「案内板にはなんて書いてあるの?」
「えーと」
こちらは歩いてゴールを目指すアトラクション。
この病院には人々の恨みや悲しみ、負のパワーがたくさん集まっています。
入ったら最後、誰一人戻ってきた人はいません。
「本格的に作られてるわね」
「まさにダンジョンって感じだな」
こういう類のダンジョンは何度も行ったので、ジャミル達にとっては余裕である。
とはいえ、油断大敵なので、しっかりと準備した。
こうして五人は病院の中に入っていった。
中は真っ暗で今にも何かが出てきそうな雰囲気だ。
ジャミルが精神を集中すると物音が聞こえてくる。
「案外、何も出てこないのね」
ミリアムがそんな事を言う。
ジャミルが先頭に進んでいた時、足に何かがぶつかった。
突然、パチッと頭上の電気がついて、明るくなる。
そして、ジャミルの目の前にいたのは。
「うああああああ」
包帯がグルグル巻かれた、ゾンビだった。
ジャミル達は迷わず武器を抜き、ミリアムは杖を構える。
「相手は一体だ! 気を抜かずにやれば勝てる!」
「了解!」
ミリアムは杖を構え、呪文を詠唱してゾンビを念力で浮かせ、転ばせる。
その隙にトモエが勢いよく薙刀を振ってゾンビを薙ぎ払い、モニカが弓から矢を放って倒した。
「よし、一体撃破……とはいかないみたいだな」
ジャミルの言う通り、後ろからゾロゾロと、奇妙な足音が聞こえてくる。
「なんだ!」
後ろを振り返れば、何体ものゾンビが手をダランと上げてゆっくりと迫ってきていた。
「タスケテ……アツィ、アツィヨォ……」
「トモエ、薙刀を振れ!」
ゾンビは包帯や眼帯をしていて、熱いとしきりに言っていた。
ジャミルの指示で、トモエはゾンビに薙刀を振り下ろす。
「やぁぁぁぁっ!」
「そこか!」
モニカは弓でゾンビの頭を射抜く。
ジャミルはゾンビに狙いを定め、レイピアでゾンビの胸を貫く。
「燃えちゃえ! ファイアボール!」
ミリアムは呪文を唱え、炎の魔法でゾンビに追い打ちをかけた。
炎がゾンビの体を焼き尽くし、大ダメージを与える。
「これで終わりです!」
そして、トモエが薙刀を構えてゾンビに突進し、薙刀を振るってゾンビの首を切り落とした。
こうして、一瞬でゾンビの脅威は消え去った。
―ドオン!
その時、急にノーラの目の前で、大きな爆発が起こった。
「くっ!」
爆発の後、爆風がジャミル達を襲う。
とても立っていられないくらいの強い風だったが、ジャミル達は何とか踏ん張った。
目を凝らして見ると、すぐそこには白衣を着た骸骨の医者が立っていた。
「くそ、また敵か!」
「敵は一体だ、油断するなよ! ♪~♪~♪~♪~」
ジャミルは歌を歌って気合を溜める。
敵に圧倒的な優位を得たが、それだけでは倒せない事をジャミルは知っていた。
「そこだ!」
モニカは距離を取って弓で骸骨を狙ったが、骨を矢がすり抜け、空を切ってしまう。
骸骨の医者はノーラに殴りかかるが、鎧を着ているノーラにはほとんどダメージを与えられなかった。
「はんっ、アタイを傷つけようなんて百年早いよ!」
ノーラは巨大なハンマーを振り下ろしたが、骸骨の医者は見た目に似合わず素早く回避した。
トモエは薙刀を構えて骸骨の医者に突き刺すが、やはり骨に刺突攻撃は通用しない。
「おぉ、身体が軽い、軽い」
ジャミルのレイピアが骸骨の医者に決定的な一撃を与えた。
その一撃で怯んだ骸骨の医者に、ミリアムの炎の魔法が命中し、着ている服ごと骸骨の医者は燃え上がった。
骸骨の医者はバラバラになり、戦闘は終わった。
「早く行くぞ!」
順路と書かれたところを真っ直ぐに突き進んでいくと、光のようなものが見えた。
「ドアが開いてるわ! あそこが出口よ!」
しかし、ゴールの前の床には大きな穴が開いている。
ジャミル達は、空を飛べなかった。
「古すぎて壊れてしまったのかもしれないねぇ」
「そしたらどうやって、出口まで行ったらいいの?」
ノーラは辺りを見渡す。
何かに気づいたようで、小さいながら一生懸命に天井を指差した。
「あれじゃないか?」
コードのようなものが、上から垂れ下がっている。
「あれを引っ張って橋代わりにすればいいんじゃないかい?」
「流石ですね。では、私が持ち上げます」
トモエはノーラを肩車し、ノーラはコードを引っ張って地面に落とした。
「結構頑丈そうだねぇ」
コードは頑丈そうなので、きちんと縛り付ければ橋になりそうだ。
ノーラは手先の器用さを生かし、コードを橋のように縛り付けていった。
結果、ジャミル達はふらつきながらも何とかコードの橋を通って脱出した。
こうしておばけ屋敷を脱出したジャミル達だったが、ゲームマスターの事もあって、かなり警戒していた。
「観覧車に向かいましょう」
トモエの言葉に皆は頷いて、観覧車へと向かう事になった。
その間、話をする人は誰もいなかった。
しばらく歩いて、大きな観覧車が近づいてきた。
ピンク色に光る観覧車は今、動いていないようだった。
案内所まで向かうと、そこには最初にジャミル達に風船を渡したゲームマスターの熊の姿があった。
「あっ!」
ミリアムが声を上げると、ゲームマスターは声を出す。
「皆さん、よくここまで辿り着きましたね! チケットコンプリートおめでとうございます。三枚のチケットを回収させていただきます」
軽快な声に、ジャミル達はじっとゲームマスターを睨みつける。
ジャミルは、チケットを全てゲームマスターに渡した。
彼が、ジャミル達をこの裏遊園地まで連れてきた元凶だ。
「さあ、ゲームマスター。お前を……倒してやる!」
ジャミルが彼にレイピアを突きつけると、ゲームマスターは沈黙した。
そして、指をパチンと鳴らす。
「何!?」
止まっていた観覧車が動き出した。
「今から最後のゲームの説明をします」
「……やっぱりな」