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第7話 最後のゲーム

「……チケットを三枚集めたら出られるわけないよな」

「まず、女性はジャミルさんに告白をしてから、この観覧車のゴンドラに一人ずつ乗ってもらいます。

 観覧車が一周しましたら、ジャミルさんには本当に自分が好きだと思う人のゴンドラの中に入っていただきます」

「仲間が俺に告白する? 何を言われているのかサッパリ分からない」

 ジャミルは、女性陣を仲間としか思っていないため、訳が分からなかった。

「そして頂上でキスをしていただきます」

「ざけんな」

「観覧車がもう一周を終えた時、出口が見える仕組みになっております。ただし、ジャミルさんと、ジャミルさんに選ばれた人しかこの裏遊園地から脱出する事はできません」

「クソっ……!」

 ジャミルは歯を食いしばりながら、女性陣の顔を見つめた。

 しかし四人は、それを受けいれるような表情をしている。

「……最初から罠だとは思ったよ。これもお前のせいだろ?」

 その問いに答えたのは、ゲームマスターだった。

「そう。女性四人にはルール説明の際、知らされていました。ジャミルさんには公平に選んでいただきたく、お伝えしませんでした」

「……やっぱりな」

 気まずそうに頷く四人に、ジャミルは自嘲した。

「私達はヘッドフォンをつけた時に、そのルールを聞かされた。そして、それをジャミルに伝えてはならないという事も」

「……」

 考えてみれば、ジャミルだけは、ヘッドフォンを外すのが早かった。

 その間に女性陣は別のルールを聞いていたらしい。

「ジャミルさんは戸惑いませんでしたが、私は最初聞いた時は驚きました。でも、みんな覚悟を決めたんです」

 トモエが優しく笑う。

 覚悟を決めていた事が、皆の眼差しからジャミルには分かる。

「まあ……俺達は仲間だもんな」

「当たり前だ。水底の冒険者は、数々の冒険をこなしてきたからな」

「そうよ! こんな奴なんか、やっつけるんだから!」

「みんな同じ気持ちです」

「途中からそのルール忘れてたしね」

「だから選んでくれ、ジャミル」

 皆、覚悟を決めた目をしている。

 だが、ジャミルは首を横に振った。

「誰かを選んだら、他の三人はここから出られなくなる。俺には絶対にできない」

 ジャミルにとってモニカ達は大切な仲間だ。

 彼女達を見捨てるわけにはいかない。

「まあ、ジャミルならそう言うと思ったぞ」

「アンタの性格ならそうなるだろうね」

 モニカの言葉にノーラが続ける。


「だから、俺達はお前を倒す。覚悟するのはお前の方だ!」

 ジャミルは真っ直ぐにレイピアをゲームマスターに向ける。

 モニカ、ミリアム、ノーラ、トモエも次々に武器を取り、戦闘態勢を取った。

「私達は色や恋とは無縁の冒険者だ。だが、海より深い情けはある」

「冒険者の道を只管歩いて、明日を見るんだよ」

「強く、激しく、そして暖かく。炎はこういうものじゃないかって」

「いつか高みを目指して、夢見ます」

「最後の戦いだ……みんな、いくぞ!!」


 ゲームマスターが二体のガーゴイルを呼び出し、決戦が始まった。


「あなた達はここで永遠に働いていればいいのです!!」

「ぐっ……! 耐えろ!!」

 ゲームマスターの威圧感に圧倒されるジャミル達だが冒険者として必死に耐える。

 プレッシャーがかかって体力が減るも、ジャミル達は鋭い目で睨みつける。

「せいっ!」

 ジャミルはレイピアでガーゴイルを突き刺し、トモエは薙刀を地面に突き刺し方陣から光を放って体力を回復する。

 モニカは空を飛んでいるガーゴイルに向けて矢を放ち、見事に命中した。

「いっちゃえー、ファイアブラスト!」

 ミリアムは呪文を唱えて杖から巨大な火炎弾を放ち、ガーゴイルに命中すると燃え上がって灰になった。


「やるじゃないか、ミリアム」

「えっへへー、あたしもやればできるのよ。っと、危ない、ジャミル!」

「なん……ぐっ!」

 ミリアムの掛け声を聞いたジャミルの腹部を闇の刃が切り裂く。

「油断大敵……ですよ」

「くそ、許さない!」

 ゲームマスターは嘲笑するように宙に浮き上がる。

 挑発に乗ったジャミルはゲームマスターを攻撃しようとするが、空を飛んでいるガーゴイルに阻まれる。

 トモエは薙刀を上手くガーゴイルに当てて、ダメージを与える。

「私達は絶対に、お前には負けない! 覚悟しろ!」

 モニカは力いっぱい弓を引き絞り、強力な矢を放ち、ゲームマスターの身体に突き刺す。

 さらに、ミリアムも続けて魔法でゲームマスターの身体を浮かし、地面に叩きつけて攻撃する。

「おっと、危ないねぇ!」

 ガーゴイルが詠唱後のミリアムを攻撃しようとするが、ノーラが庇ってハンマーを振るい、ガーゴイルの攻撃を防ぐ。

 しかし、ゲームマスターになかなか攻撃が届かず、さらにゲームマスターの攻撃も激しくなっていく。

 もう駄目かとジャミル達が思った、その時。


「たぁぁぁぁぁぁぁーっ!」

「テティス!?」

「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」

 突然、槍を構えたテティスが裏遊園地に現れると、ゲームマスター目掛けて槍を突き刺した。

 不意打ちでゲームマスターはかわせず、身体に槍が刺さり、赤い液体が飛び散る。

「ジャミルさん……わたくし、助けに、来ましたわよ……!」

 テティスが震えながらジャミルに報告する。

 何故彼女が来たのかは不明だが、とにかく、彼女の不意打ちでゲームマスターを一撃で倒す事ができた。

 ただのクレリックと侮ってはいけないのがテティスである。


「なんで……お前が……乱入したんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 すると突然、空気が震えるほどの大きな音でサイレンが鳴り出した。

 ゲームマスターの体が光を放ち、辺りがだんだん真っ白になってくる。

 音が止み、目を開けると、白いモヤは晴れていた。


「あれ、ここ……」

 気がつくと、もう不気味な遊園地の姿はなかった。

 辺りを見回すと、ジャミル達の他にもたくさんの人がいて、皆が乗り物に乗ったり、食べ物を食べたり……ここは、最初に来た遊園地だ。


「帰れたようだな……」

「そうだな……」

 戦いは、終わった。

 水底の冒険者はゲームマスターを倒し、裏遊園地から脱出したのだ。

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