第8話 色も恋もなく、あるのは情け
こうして、ジャミル達はゲームマスターを倒し、無事に裏遊園地から脱出した。
人々は裏遊園地の事を当然覚えていなかったが、ジャミル達には印象に残る冒険だった。
「ふぇーーーっくしゅい! こういう辛気臭いところから出ると、いの一番にくしゃみが出ますね……」
(いや、多分、別の理由でくしゃみしてるんだと思う)
トモエは、裏遊園地から脱出した後、何故かくしゃみをしていた。
「でも、テティスはよくあそこに入れたよな。一体、どうやって突撃したんだ?」
「実はジャミルさんを助けるために、一生懸命に槍やら魔法やらを使ってドアを攻撃したんですが、わたくしの力ではどうしようもなくて……。
しかし、困っていたところをとっても髪が長い女の人に助けてもらって、不思議な遊園地に突入しちゃったんです。
わたくしがあいつを突き刺した時には、もうここに出ちゃってましたが……」
「そいつはどんな奴なんだ?」
「探索者……だった、と思います」
どうやらテティスは「探索者」に助けられ、裏遊園地に突入したらしい。
テティスには何が何だか分からなかったようだが、ジャミルを助ける事ができればそれでいいと思ったとか。
「わたくし、ジャミルさんが心配で心配で……ずっと待っているだけなのは嫌で、でも、わたくしだけではできなくて……」
「テティス、本当に俺を心配してくれたんだな。あぁ、ありがとう……」
そう言って、ジャミルはテティスを抱きしめる。
テティスは大好きなリーダーの抱擁を受けて、顔が真っ赤になる。
「……ジャミルには私がいるんじゃなかったのか?」
その様子を、パートナーのモニカが白い目で見たのは、言うまでもない。
「さぁ、帰ったらいっぱい飲もうじゃないか!」
「ノーラさん、まだ飲む気ですか? 裏遊園地ではたくさん飲んだでしょう?」
「まだまだ! あたいには足りないんだよ。もうちょっと飲まなくっちゃね!」
やれやれ、また酒代がかさむのか……とジャミルが愚痴りつつも、なんだかんだで楽しい冒険だったとジャミルは思うのだった。
六人が遊園地を後にすると、茶髪で赤いスカートの少女と、四人の少年とすれ違った。
恐らく子供ばかりだろうが、ジャミル達は特に気にする事なく、宿屋に戻った。
そして宿に戻ってきた六人は、亭主に裏遊園地の冒険を報告する。
「なるほど、そりゃ散々だったな」
「いや、散々じゃなかったさ。あのゲームマスターはウザかったけど、俺達の結束は強くなったし、雨降って地固まるってな」
「それは結構だ」
「ところで、裏遊園地とやらは知らなかったのか? 噂になっているなら知っているはずだが……」
「ああ、それはだな……」
どうやらあの遊園地は、何者かによって具現化した「都市伝説の呪い」の一種らしい。
呪いにしては非常に大がかりだったが、入ったら最後、必ず不幸になるという。
入ってくるのは力を持たない子供ばかりのはずだったが、不幸にも裏遊園地に侵入したのは腕利きの冒険者だったので、大した被害は及ばなかったという。
「ゲームマスターよぉ、俺達が来たのが運の尽きだったようだな」
「そうだな、冒険者パーティーは色恋より情けだからな」
ジャミルとモニカが笑いながらご飯を食べる。
ノーラは、エールを飲んでへべれけ状態だった。
「はぁ~、あったまるねぇ~」
「これで5杯目だぞ、ノーラ」
酒を飲みまくっているノーラに、流石の亭主も呆れていた。
だが彼女は実際、ドワーフだけあって酒に強く、亭主は何も言えなかった。
「でも、飲みすぎるとまたツケが増えるぞ。ほどほどにするんだな。……裏遊園地で、あんなに飲んだ癖に」
「何か言ったか~い? ジャミル」
「別に、何でもないっての」
一方、自宅に帰ろうとしていた一人の少女と四人の少年は、すれ違ったジャミル達についてこんな感想を述べていた。
「男の人の周りに、たくさん女の人がいる。しかも、みんな武器を装備していたなんて、信じられない」
「お前から見れば、信じられなかっただろうな。あんな格好、伊達かと思ったよ」
「一度あいつらと勝負したいな。所詮、女が集まっただけだし」
「でも、女の子だからって馬鹿にしちゃ良くないと思うよ。女は弱いけど母は強いってことわざもあるしね」
「まあ……とりあえず、警戒はしよう」
「それじゃ、また明日。みんなで一緒に、遊園地に行こうね」
「ああ、朱莉も元気でな!」
朱莉は少年達に手を振り、自宅へ真っ直ぐ帰っていった。
「わたしも、あの女の人達みたいに、強くなりたい。でも、きっと、男の子が許してくれないと思う。それでも、思うだけなら間違ってないよね?」
これは、ある六人の冒険者が挑んだ、裏遊園地からの脱出冒険劇である。