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第5話 ミイラエリアでも戦いは忘れない

 次のエリアは、先程とは雰囲気がかなり違っていた。

 展示品を保護するためなのか、薄暗く、人間の環はまだ目が慣れない。

 一方、暗視ができるドワーフ達は、難なく進んでいる。


「今はあんた達が羨ましいですね。それで、ここはどうなってるんですか?」

「普段の博物館では、ミイラや武器が展示されてるところなんだけど……」

 マアリンが言う。

 ミイラや武器は、アルカディアでは珍しくないものだ。

 まあ当然だろうと環が頷くと、ホシが彼女の目を見て言った。

「おい環、またあいつに暴力を振るうのか?」

「暴力禁止とは言われてませんでしたからね」

 すると、ドウォルムールが環に声をかけた。

「じゃ、行こう」

「その様子だと、手伝ってくれるみたいですね。まあ、仲間ですから、当然ですね」

 ドワーフ達と共に環が目を慣らす。

 できるだけお互いに会話をしながら誰がどこにいるのかを把握しつつ、奥の方まで進んでいった。

「何もないな」

「意外ですね。ここは絶対に何か起きるはずですが……」

 念のため、環は警戒しながら先に進む。

 すると……。


「なんだ、あれは」

 ホシが展示室の中央を指差した。

 床にライトが当てられていて、そこには大小様々な剣が置かれている。

 その横には、盾も並べられていた。

 しかし、環達は全員、それぞれ武器を装備しているため意味はなかった。

「では、これは金にしよう」

 ドウォルムールはお金にするため、いくらか持っていった。

「なんで、床に置いてあるんだ?」

 他のものは、ガラスケースに入って展示されているのに、不自然だ。

 環達には違和感がよく分からず、頭を捻っている。

「ま、まあ、早く、ホシ兄は先に歩いて」

「なんだよ、マアリン。普段はそんな事、言わないのに」

「いいから」

「いざとなったら環も戦いますからね! というかしょっちゅう起こってますけど」

 歩き出そうとした時、正面から何やら音が聞こえてくるのに気が付いた。


――カチャ、カチャ、カチャ、カチャ。


「待ってください! 何か音が聞こえますよ!」

 金属同士がぶつかるような音が、だんだん近づいてくる。

 同時にド、ド、ドという床を蹴る足音のようなものも聞こえる。

 すると、甲冑を着ている兵士が何人も姿を現した。

 顔まで鉄の鎧で覆われていて、手には剣が握られている。

「武装ミイラ……か?」

「革命の銃、ここにあり! なんて言うてる場合やない、戦いますよ!」


「Balle d'esprit de divinite!」

 マアリンは呪文を唱えて、武装したミイラを見えない力で吹き飛ばす。

 環は二丁拳銃で、よろめいたミイラを正確に撃ち抜いた。

「おらぁっ!」

 コシはハンマーを振り回したが、ミイラは盾でコシの攻撃を防ぐ。

 だが隙はできたようで、ホシはミイラの急所を短剣で突き、戦闘不能にした。

 ドウォルムールは斧を勢いよく振り下ろし、ミイラの兜を打ち砕く。

 すると、もう一体のミイラがドウォルムールに剣を振り下ろした。

 当たりどころが悪かったのか、ドウォルムールは戦闘不能になってしまう。


「ドウォルムール兄!」

 コシが叫び悲しむ間もなく、まだ倒れていないミイラがコシを剣で斬りつける。

 環は歯を食いしばると二丁拳銃を構え、連続射撃により二体目のミイラを倒した。

 ホシは短剣で素早くミイラを斬りつけ、転ばせる。

「Balle d'esprit de divinite!」

 マアリンが唱えた呪文はギリギリで命中し、コシはハンマーでフェイントをかけ、武装したミイラの動きを鈍らせる。

 そして、環が素早く武装したミイラに接近して二丁拳銃を乱射すると、武装したミイラは耐えられず、戦闘不能になった。


「……や、やっと終わりました……」

 環達はボロボロになりながらも、何とか甲冑ミイラを全て戦闘不能にした。

 ドウォルムールとコシこそ戦闘不能になったが、まだ死んでいなかった。


 薄暗い展示室を抜けると、辺りはだんだん明るくなっていった。

「このエリアは、脱出成功ですね」

 環がそう言うと、皆も静かに頷いた。

 女性でありながら勇敢に戦っている環を見て、ホシは意外な顔をしていた。

「……お前は人間だよな。人間の女が冒険者をしているのは珍しくないが、まさかここまでやるとは……」

「あんた達は則天武后、ジャンヌ・ダルク、甲斐姫をご存じないんですか?」

「なんだ? そいつらは」

「環はこの人達、好きなんですよ」

 とにかく戦うのが大好きな環は、それなりに有名な歴史上の女傑の名を挙げた。

 だが、ドワーフ達はそれが誰なのか、さっぱり分からなかった。


「女は家庭を守るもの。それから外れたから、国は亡びるんでしょうね。ホンマ、日本人ってのは中途半端な人種やね」

 その呟きは、ドワーフ達には聞こえなかった。

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