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第8話 恐竜エリアで決戦の時

 環達は急ぎ足で奥へと進み、恐竜エリアにやってきた。

 この博物館では、大きな恐竜の骨格標本が展示されている。

 しかしこの恐竜エリアは、いつもの博物館とは、がらりと印象が違っていた。


「ここ、ジャングルですか?」

 木が生い茂り、どこからか水の音や、鳥の声が聞こえてくる。

「ここが恐竜エリア? 普段とは随分違うな……」

「そもそも恐竜がいねぇじゃねーか!」

 入ってすぐのところにあるはずの、大きな恐竜の骨格標本が見当たらない。

「少し歩いてみようか」

 環達は、皆で奥の方へと進んだ。

 木々をかきわけて進んでいくが、顔や頭に葉っぱがかかって歩くのが大変だ。

「環さん、ついてる」

「下には何もついてませんよ」

「そういう意味じゃなくて……」

 そう言うと、マアリンの手がそっと伸びてくる。

「ほら」

 マアリンは環の頭の横から、葉っぱを取ってくれた。

「気づかんかった……。あ、マアリンにもついてますよ」

「えっ」

 環もマアリンの髪についていた葉っぱを取った。

「ふふ……」

 お互いに笑い合うと、マアリンが静かに言った。

「昔はこんな感じだったのかな?」

「昔……?」

「恐竜がいた時代は建物がなくて、人も歩いてなくて、植物もこんな風に大きい。そういうところで恐竜達は暮らしてたのかな。まあ、魔物もそうなんだけど」

「見て、あれ!」

 コシがそう言った瞬間、目の前にティラノサウルスが立っていた。

 その横には、あの骸骨の館長が立っている。


「ようこそ……ここが最終エリアです」

「あんたが館長ですか……。環としては、とっととくたばってほしいんですけどね」

 ここまでの反動からか、環の口調が荒々しくなっている。

 マアリンらドワーフ四兄弟も、環に合わせて武器を構えていた。

「僕達を苦しめた報いを受けるがいい」

「環さんのためなら、頑張るからね」

「……館長よ、これが年貢の納め時だ」

「これ以上みんなを怒らせるとどうなるか、教えてあげるよ」

「ククククッ、それで勝てると思っているのか?」

 しかし、骸骨の館長はなおも余裕の笑みを浮かべている。

 マアリンが困惑して首を傾げた瞬間、ティラノサウルスが勢いよく走り出した。

 環は二丁拳銃を構え、巨大なティラノサウルスの懐に潜り込んで乱射した。

 二発の弾丸が恐竜の皮膚を貫き、液体が飛び散る。

 ティラノサウルスは痛みに怒り、尾を振り回して反撃した。

 ドウォルムール、ホシ、コシの三人が尾の攻撃をかわそうとしたが、コシだけは間に合わず、尾がコシの胸に直撃して吹き飛んだ。


「確かにあいつは強い。だったら、やっつければいいだけの話だ!」

 ホシはティラノサウルスの足元に潜り込み、短剣で素早く三回刺し込んだが、そのうちの一回はティラノサウルスの骨に弾かれてしまった。

 しかし、ホシは敵の不意を突いて、背後から致命的な一撃を放った。

「見てください。砂が……!」

 戦っている最中にも、環の砂時計の中の砂が落ちてしまう。

 徐々に、粒が下に落ちていき、いよいよ最後の数粒となっていく。


 コシは倒れたまま回復薬を飲み、体力が少し回復したがまだ立ち上がれない。

 ドウォルムールは斧を振り下ろして、ティラノサウルスの首に深い傷をつけた。

「grand vie double!」

 マアリンはドウォルムールの傷を癒すため、体力を大きく回復する呪文を唱えた。

「助かったよ……」

 ホシは精神を集中し、再びティラノサウルスに短剣を三回、突き刺した。

 ティラノサウルスはホシの攻撃に怯んだがすぐに反撃に転じ、再び尾を振り回す。

 ドウォルムールとホシは素早く避けたが、コシだけはまだ立ち上がれなかった。

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」

 尾がコシの腹にぶつかり、コシは悲鳴を上げた。


「くっ、早く倒したいのに……!」

 環は銃を装填しようとしたが、弾倉が詰まって上手くいかなかった。

 彼女は残り時間に焦りながら、銃を直そうとする。

「アックスブーム!」

 ドウォルムールは斧を振り上げ、ティラノサウルスの頭に叩き込む。

 ティラノサウルスは頭を揺らして、斧を振り払う。

「magie pierre!」

 マアリンは呪文を唱えて無数の石を作り出し、ティラノサウルスの目に放つとティラノサウルスは激しい痛みに吠える。

 コシはハンマーを持ってティラノサウルスに立ち向かい、ハンマーが恐竜の脚にぶつかり、骨が折れる。

 命中した後、コシはさらにハンマーを振り回し、ティラノサウルスの顎に当てる。

 ティラノサウルスはコシを2回殴りつけ、急所と首を殴って戦闘不能にした。


「何という事だ……コシ、敵は討つぞ!」

 ホシは弟の敵を討つため、ティラノサウルスに短剣を3回突き刺した。

 ティラノサウルスはホシの攻撃に耐えているものの、体力は残り僅かだ。

「くたばりなさい!」

 環は銃を直してティラノサウルスに向かって発砲したが、ティラノサウルスは環の銃弾をかわした。

「かち割りダイナミック!」

 ドウォルムールは斧でティラノサウルスを攻撃したが、攻撃はかわされてしまう。

「これで、とどめです!!」

 環はティラノサウルスに向かって銃を撃ち、銃弾がティラノサウルスの心臓に当たり、ついにティラノサウルスを倒した。


 ――だが、たった今、最後の数粒が下に落ちてしまった。


「……間に合いませんでしたか」

「嘘だろ!?」

 戦闘不能から復活したホシは環の様子を見に行くが、彼女が何度見ても、砂は全て、下に落ちている。

 すると、骸骨は両手を広げた。

「ククク、時間切れだ。さぁ、全員まとめて、この裏博物館の展示物になるといい」

 骸骨がそう言った瞬間、環がつけている砂時計が色をなくした。

「砂時計が……」

「見ろ、それだけじゃない!」

 博物館に展示され、動いていたもの達が魔法が解けたように固まっていく。

 すぐ傍に倒れていたティラノサウルスも固まっている。

 どうやら、生きたままこのような姿になってしまうようだ。

 環は右手だけで銃を構えるが、それだけだった。

 彼女の身体は鉛のように重く、そして動きにくくなっていく。

 動かないと分かっていても、ただ一丁の拳銃だけを、環は構え続ける。


「アクケルテ!!」

 環がそう言った瞬間、一丁の拳銃から光の弾丸が放たれ、骸骨に着弾する。

 その光は眩くも、とても暖かく、環達を安心させるものだった。

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!! まさか……女の身で……男を、守る、とは……。戦う女……恐る、べし……!」

 骸骨の身体はそう言って、砕け散った。


 それからの出来事は、環は何も覚えていなかった。

 だがアデルによれば、皆、ドワペノの博物館の前で倒れていたという。

 ボロボロだったものの命に別状はなく、アデルは「無事に届けられたね」と倒れている環を労った。

 ドワーフを保護する任務は達成し、環は時空の狭間で怪我を治す事にした。


「っひぃ~、痛いです~」

「もう、無理はしないでほしいです。ボク達の負担になりますから」

 ユミルは治癒魔法を使い、怪我をした環の傷を癒す。

「疲れたでしょ、これを飲んで」

 そう言ってミロは、環にコップに入った水を出す。

 環はそれを飲み干して、怪我だけでなく精神的な痛みも治療した。

「一体、あれは何だったんでしょうか。魔法がかかった裏博物館、骸骨の館長……」

「大分、落ち着いたみたいね」

「ボク達には分かりませんでしたが、アデルによれば、実はあそこは略奪神チェラベルが魔法をかけたみたいですよ」

「略奪神チェラベル?」

「生命と略奪を司る闇の神、ですが光の神と敵対はしていないそうです」

 ユミルから事情を聴いた環は、うん、とやっと頷いた。

 色々あり過ぎて、疲れてしまったようだ。

 そのため、環は床に横になり、寝てしまった。

「まあ今日は、ゆっくり休んでね。後始末はあたし達がやるから」

「……おおきに」


 こうして、環の二度目の大冒険は幕を閉じた。

 ドワーフ達を保護し、裏博物館の魔法を体験した彼女は、脳内にそれらの記憶をしまっておいた。

 そして、今度は女性陣と一緒に冒険したいと、環は思うのだった。

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