第1話 毛だらけのインク
「まずはオクタリアン基地を見つけるんじゃ! ワシが道中、戦場の鉄則をレクチャーするでの」
アタリメに言われた通り、プシットとラクスはオクタリアン基地に向かっていった。
その途中で、プシットは謎のインクを見つけた。
インクにしては不気味な配色をしていて、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
「これ、インクでしょうか? 撃ったら消えるはずですよね」
試しにそのインクにヒーローシューターを撃つが、そのインクは自身のインクを弾いていた。
「どうしてインクが消えないんでしょうか? もしかしたら、このインクに何か……」
「触るでない!!」
「えっ?」
プシットがそのインクに触れた瞬間、インクが蠢いてプシットの身体を包もうとする。
「うわぁぁっ!」
何とかプシットは手を引っ込めて事なきを得たが、あと少し遅かったら全身があの不気味なインクに包まれていたかもしれない。
プシットはその光景を頭に浮かべ、ぞっとする。
「そこら中にくっついとるケバいインク……ケバインクに触ったら『ボンッ』じゃ……!」
「……肝に銘じます」
プシットは頷くと、ヒーローシューターで地面を塗りながら進んでいった。
誤ってケバインクにぶつからないように、イカの姿には戻らずに歩いて行く。
とはいえ、塗りすぎるとインクが切れるため、こまめに潜ってインクを回復する。
「狭いですね……」
あちこちにケバインクがあるため、プシットもラクスもまともに歩けなかった。
しかし、ラクスは何故か、ケバインクに興味を示している。
「ラクス? どうしましたか?」
プシットにはラクスの言葉は分からない。
それでも、ラクスがケバインクに興味津々なのはラクスの様子を見ても明らかだ。
そんなラクスについていくと、大きなケバインクが道を塞いでいた。
そのケバインクの上には、丸い玉があった。
その玉を見たラクスが、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「プシット、道を塞いどるケバインクが見えるかの? 恐らく、丸っこいのがコアじゃ」
「コア?」
あれがケバインクのコアなのだろうか。
プシットは、ラクスと共にケバインクの先端についている丸い玉をじっと見ていた。
「あのコアがケバインクを支えておると見たが、ヤツにはインクが効かんようでな……」
「ああ、いえ、そうですよね……」
プシットはもう一度インクを撃ってみたが、ケバインクはまるで表面張力でもあるかのようにインクを弾く。
このケバインクは、イカやタコのインクを否定するものらしい。
「確かに効きませんね……。ひとまず無視して、タコの基地を探しましょう」
とりあえずケバインクは後回しにして、プシットとラクスは隣の道の薬缶を調べた。
「あれは、きゃつらの基地の入口! フタを撃ってこじ開けるんじゃ!」
「はい!」
プシットはヒーローシューターを構えると、薬缶の蓋に向けて連射した。
テープが付いた蓋はどこかに吹っ飛び、オクタリアンの基地の入り口が開かれた。
クレーターの奥地にあるタコが実在するらしいが、どんなタコなのかはプシットには分からなかった。
それでも、プシットは勇気を出して、薬缶の中に飛び込んだ。
「よーしプシット、張り切っていくぞィ!」
「了解!」
プシットはヒーローシューターを構えて、目の前の箱と風船を撃ち抜いた。
風船の中にはイクラが入っていた。
「これは……」
「イクラ、かのう?」
アタリメとプシットがイクラを見つめていると、ラクスが急にイクラに反応しだした。
「ちょっとラクス! もしかして、このイクラが好きなんですか?」
プシットがそう言うと、ラクスはプシットの周りを円を描くように動き回る。
どうやらラクスは、イクラが好物らしい。
もしかしたら、これが役に立つかもしれないと、プシットはイクラをタンクの中にしまった。
「周囲を見渡して撃ち、左右を見回す! 戦場の鉄則ーッ!」
柱をインクで塗りながらプシットは登っていき、飛び降りながらヒーローシューターで風船を撃つ。
こうしてプシットが進んでいくと、ジャンプポイントを発見した。
プシットはイカに戻り、大ジャンプして先に進む。
「この風船は、撃ったらどうなるんでしょうか」
プシットがヒーローシューターで風船を撃つと、風船はみるみるうちに膨らんで大爆発し、衝撃で箱を全て破壊する。
「わっ、壊れた!」
「今、爆発したのはボム風船じゃ! とりあえずドカーンでウハウハじゃぞ!」
「つまり、これを壊していけばいいんですね」
プシットは風船を割りながら、イクラを回収する。
左にはスイッチがあり、それを塗ると床が横向きになっていく。
その床に登ると、高い場所に箱が置いてあった。
一人では届かなさそうため、プシットはラクスを箱目掛けて投げ飛ばす。
ラクスは暴れ回って箱を破壊し、中から飛び出たイクラをプシットに渡した。
「ナイスじゃ!」
「ありがとうございます、ラクス」
プシットはラクスにお礼を言った後、道を塗りながら先に進んでいく。
風船を割って箱を一気に破壊し、イクラを回収し、奥にあったスイッチを塗って道を作る。
その奥の丈夫な箱をヒーローシューターを連射して破壊すると、中からアーマーが飛び出した。
敵のインクの猛攻を受けても一度だけ守ってくれるものだ。
「とりあえず、持っていきますか」
プシットがアーマーを装備して先に行くと、また遠い場所に箱があった。
ラクスを投げて箱を破壊してもらうと、中からイクラを回収した。
とりあえず調べられる場所は調べたので、上に登って上空から風船を割って箱を破壊した。
「この先にタコなんているんですかね?」
そう言ってプシットはスイッチを押し、凹型の道が倒れて道ができる。
すると、道の向こうにタコ――オクタリアンの姿を発見したが、プシットはオクタリアンを見て目を見開く。
「あれは……!?」
本来、魚介類には生えないはずの「毛」が生えていたのだ。
「ヌ! あれに見えるはタコトルーパーじゃ!」
「でも、なんか様子がおかしいですよ?」
「そんな事はどうでもいい! とっちめてやれィ!」
「……分かりました」
毛が生えたタコの謎は分からなかったが、とにかく、倒さなければ先に進めない。
プシットはヒーローシューターを構えて、タコトルーパーに挑んだ。
「危ない時は壁の後ろで深呼吸! 戦場の鉄則ゥ!」
「はいっ!」
プシットは地面をインクで塗って自陣を有利にし、タコの攻撃が届かない場所に上がり、上空からヒーローシューターを連射する。
タコトルーパーはプシットに気づかず、倒れた。
「ィよーし!!」
「……」
タコトルーパーを倒したプシットだが、やはりタコに生えた毛が気がかりだった。
「あの、どうしてあのタコに毛が……」
「だから、そんな事はどうでもよい! とっとと先に進むのじゃ!」
「はい……」
年老いても、いや、年老いたからこそ、アタリメは押しが強くなったのだろう。
プシットは渋々スイッチを押し、ゴールに繋がる道を作った。
奥には、電気を放つ小さなナマズ――デンチナマズが捕らえられていた。
「バリアを割って、タッチでゲットじゃ!」
「了解です」
ヒーローシューターでバリアを破壊したプシットは、捕まっていたデンチナマズを救出する。
こうして最初のクレーター探索は終わるのだった。