第2話 クレーター探索
「ナイスじゃったぞ、プシット! ワシの若い頃を思い出すわィ!」
「ありがとうございます」
無事にデンチナマズを救出したプシットを、アタリメは褒めている。
プシットはアタリメに丁寧にお礼を言い、ラクスはプシットの周りを飛び跳ねていた。
「そういえば、おヌシが首にかけてるそのペンダントは何じゃ?」
アタリメはプシットのペンダントを指差している。
ペンダントには、白と黒の光が反射していた。
「確か、テンタクルズという方が僕にプレゼントした物のようです」
「テンタクルズ……ああ、今は世界的に有名な二人組の歌手・ヒメとイイダの事じゃな」
現在、テンタクルズはワールドツアーに出かけており、バンカラ街には来ていない。
しかし、イカやタコ達は応援しているようで、時々贈り物をする事があり、これがそのペンダントだという。
「バンカラ街に行く僕を応援するために、テンタクルズはこれを贈ってきたと思います」
「ファンサービスは忘れない、歌手の鑑じゃな」
アタリメとプシットは、テンタクルズの優しさに感謝するのだった。
「話は変わるが、デンチナマズはエネルギー源の一種じゃ」
「知ってますよ、オオデンチナマズと関係あるでしょう?」
「その通り。オオデンチナマズもこの先にいる可能性が高いぞィ!」
この先に進めば、行方不明のオオデンチナマズも見つかるかもしれない、と思ったプシットは、ラクスと共にケバインクで覆われた道に着く。
「うーむ、ケバインクのせいで進めんのゥ……。このコアがある限り、ケバケバし続けるんじゃろうな」
「コア……ですか」
プシットはじっとコアを見つめる。
確かに、あのコアがケバインクを生み出しているものなのかもしれない。
しかし、プシットにこれを消す手段はなかった。
「どうすればいいんでしょう……」
「うーむ……」
プシットとアタリメが頭を抱えていると、ラクスが急にタンクの中から飛び出し、何やら言いたげな様子でプシットの周りを回った。
「ラクス?」
「そうじゃ……コジャケはイクラでパワーアップすると聞いた事があるぞィ! イクラをあげてみるんじゃ!」
「……はい!」
プシットは懐からイクラを取り出し、ラクスに食べさせる。
すると、ラクスはコア目掛けて飛び掛かり、たったの一口で大きなコアを食べ、ケバインクはあっという間に消滅した。
「おおッ、コアを食べよった!! 小さな体でパワフルじゃのー!」
「まさかラクスにこんな力があるなんて……」
プシットはケバインクを食べたラクスを見て呆然としていた。
触れただけで襲い掛かったケバインクを、一口で全て食べ切るラクスに驚きを隠せない。
何はともあれ、これで先に進めるため、プシットとラクスはインクを塗りながら進んだ。
「こ、こんなにケバインクがあるなんて……。ラクス、何とかしてください」
道中は触れてはならないケバインクで塗れていた。
プシットはケバインクに注意しつつ、イクラでパワーアップしたラクスにケバインクを食べてもらった。
一人と一匹が先に進むと、ケバインクの下に赤いランプがついたねじが隠されていた。
それをヒーローシューターで撃つと、中からデンチナマズのぬいぐるみが出てきた。
「これは……」
「今のはびっくりネジじゃな! インクを当てるとアイテムが飛び出るぞィ!」
「ほほう、なるほど。じゃあ、狙っていけばいいんですね」
びっくりネジにはお宝が隠されている。
それを覚えたプシットは、ラクスと共に二つ目の薬缶を発見し、蓋を開けた。
「ここに、デンチナマズがいるんですね」
そう言ってプシットとラクスは薬缶の中に入った。
プシットは博識ではあったが知覚力は高くないため、どこにデンチナマズがあるのか迷った。
その結果、裏側の壁をインクで塗り、ダッシュ板を使わずに自力で登り切ってしまった。
かなり時間はかかったものの、何とかデンチナマズを助ける事はできた。
「……自力で登ったのは恐らくおヌシが初めてじゃ」
「え? そうですか?」
知識があるという事は賢明ではない、という事をプシットは初めて知るのだった。
「プシットよ! グッドじゃった!」
「あちこちに毛が生えたタコがいました。あれは一体なんだったんですか?」
落ち着いた後、プシットは毛が生えたタコについて改めてアタリメに問いただした。
すると、アタリメはふむぅ、と唸った。
「まあ、言われてみればそうじゃな。前はもっとこう、ツルッとしておったはずじゃが……」
「地球の生き物で毛が生えるのは、今はもういない生き物のはずです」
この地球にはある生き物を除いてそれらは当の昔に地球から姿を消したはずだ。
その「それら」の特徴がタコにあるなんて、プシットとしては想像できなかった。
しかし同時に、この地球で起きている異変を、プシットは薄々ながら感じ取っていた。
もしかしたら、このケバインクと関係があるのかもしれない、と。
「イメチェン……というヤツじゃろか」
「だとしても、あんなのはあり得ません。もっと重大な事だと僕は思います」
「まぁ、どんなタコが相手でも、最新式のスーツがあれば問題なかろう」
海洋生物に毛が生えるのは本来ならあり得ない。
しかし、プシットが相手したオクタリアンには、確かにたくさんの毛が生えていた。
これは由々しき事態だと思ったプシットは、何としてでもこの異変を解決しようとした。
「海洋生物に毛が生えるなんて……」
毛が生えたタコを相手にしながら、プシットはクレーターの探索を続けていく。
最新式のヒーロースーツは、近くの敵などをマーキングする高性能センサーを始め、ハイテクな機能がてんこ盛りだという。
おかげでクレーターの探索は楽々と進んでいった。
ラクスにケバインクを食べてもらいつつ、プシットはクレーターの奥に進んでいった。
「……っ!!」
奥の道は大量のケバインクが覆っている。
プシットは意を決してラクスをイクラで強化し、そのケバインクも食べさせ、薬缶の蓋を開けて調査した。
ラクスと協力しながらデンチナマズを助け、一人と一匹は順調に奥へ進んでいった。
「その調子じゃ、プシット! にしても、ここのタコは不気味じゃわィ……。毛は分厚いのに魂はペラペラっちゅうか」
「魂は……ペラペラ?」
毛が生えたタコには自我が見当たらなかった。
まるで、かつてポリュープが解決した事件にいた、ネリモノで消毒されたタコのように。
タコに毛が生えると自我を失うのだろうか、とプシットはここで勘ぐった。
「ワシらだけでは、ちっとばかし心許ないのゥ……。よし、通信機で助けを求めるぞィ!」
「えっ、誰に助けを?」
アタリメは通信機を取り出して、連絡を取った。
「レディオチェック、レディオチェック、こちらアタリメ、どうぞ」
『ん……こちら2号、ド~ゾ~……っておじいちゃん、また勝手に歩き回っとんのね……』
アタリメが挨拶すると、無線通信に載って女性の声が聞こえてきた。
おじいちゃん、とアタリメを呼ぶその女性は、イカタコ地球で最も有名な人物の一人だった。
彼女はNew!カラストンビ部隊2号ことホタルで、かつてセピア達と共にタコからナワバリを守った人物でもある。
『1号~おじいちゃん、ほっつき歩いてるっぽい』
『行くよ、2号! じーちゃんをカクホせよっ!』
1号、と呼ばれたその人物の名は、New!カラストンビ部隊1号ことアオリである。
ホタルとは従姉妹であり、二人揃ってアタリメの孫娘でもある。
『らじゃ~、了解~、イカよろしく~』
ホタルがそう言うと、通信はぷつりと切れた。
アタリメは、やはりふむぅ、と唸り声を上げた。
『……切れてしもうた。うーむ、1号も2号もせっかちでイカんな』
「イカですからね」
インクリングは基本的に享楽的、短絡的だ。
プシットのような博識で落ち着いた者は、むしろ希少と言っても構わない。
かくいうアタリメも、若気の至りであちこちをパトロールしていたため、人、否、イカの事は言えなかった。
『ザザ……! ザザザ……!』
その時、通信にノイズ……否、何者かの声が聞こえた。
『……ギ……ギギ……アタ……ミツ……タゾ!!』
「アタリメ、どうしたんですか?」
「んん? どうも無線の調子が悪いようじゃの。まぁええか、気を取り直してレッツらゴーじゃ!」
アタリメを敵対視する、謎の声。
その声の主に、プシットとアタリメは出会おうとしていた。