第3話 タコとの戦い
「また、ケバインクがありますね」
地面を飛び降りてびっくりネジを破壊しつつ、ケバインクで狭くなった道を慎重に通るプシット。
そのケバインクをラクスに食べてもらい、次の薬缶の中も探索してデンチナマズを助けた。
「ウーム! 見事じゃ、プシット!」
「ありがとうございます、きっとこれのおかげでしょうか……」
そう言ってプシットは自分の胸を撫で回す。
彼の首には、白と黒の石がついたペンダントが身に着けられていた。
「確か、そのペンダントはテンタクルズとやらがおヌシに渡したモノのようじゃな」
「はい、これのおかげで僕は勇気が出た気がします」
テンタクルズのペンダントは勇気を与えてくれる。
プシットはテンタクルズに感謝するのだった。
「さてと……薬缶は粗方見て回ったはずじゃが、他に怪しい場所はないかのゥ?」
怪しい場所といえば、向こうにある大量のケバインクぐらいしかなかった。
地面も空も、あちこちをケバインクが覆っていて、普通の手段では通れそうになかった。
「ラクス、頼みますよ!」
イクラ1000個を使う大仕事だったが、ラクスはこれも簡単に全て食べ終わった。
アタリメはブキを杖のようにしながら、下を見る。
プシットとラクスも見下ろすと、どこかから激しい音楽が聞こえてきた。
「ヌ! なんじゃ?!」
「上を見てください!」
プシットが空を見上げると、そこには巨大なロボットに乗った一匹のタコがいた。
ロボットは形状を変えると足が短くなり、壁を一気に滑り落ちていく。
「ギギ……! アタリメ……ミツケタゾ!」
そのロボットに乗っていたのは、オクタリアンの首領・DJタコワサ将軍だった。
彼の身体には、毛が生えていなかった事が分かる。
「サイキン シモベタチガ シッソウ シテイタノハ……キサマガ ゲンインカ!」
ロボットにはたくさんの山葵が置いてあり、サングラスと特徴的な兜を身に着けていた。
まさに、彼は首領に相応しい格好をしていた。
「ヌヌッ! おヌシはDJタコワサ将軍!! ここで会ったが107年目! オオデンチナマズは返してもらうぞィ!」
「……アタリメ、何だか様子がおかしいですよ」
セピアとコウは、かつてタコワサと戦い、彼からオオデンチナマズを取り戻した事がある。
今回もまた彼が犯人だろう、とアタリメは睨んだ。
しかし、タコに育てられたイカであるプシットは、どうも彼に明確な敵意があるように思えなかった。
それどころか、まるで自分も被害者だというような面をしていた……気がした。
「プシット! きゃつはタコ軍団のボスじゃ! とっちめてやれィ!!」
「ちょっと待ってください! 本当に彼は犯人なんですか? 僕はどうも……」
「ナニヲ イッテイルノカ……! ワカラナイガ……! ワレラ タタカウ サダメ!」
そう言って、タコツボキング局地戦仕様に乗ったタコワサはプシットに襲い掛かってきた。
まだ臨戦態勢ではないプシットは、吹き飛ばされてしまう。
「タコワサ……僕はあなたと戦う意志はありません……!」
できればタコワサとは戦いたくなかったが、誤解を解くためには仕方がない。
プシットはヒーローシューターを構え、タコワサとの戦いに臨むのだった。
「来ましたね……はっ!」
飛んできたパンチをプシットはヒーローシューターで撃ち返し、タコツボキングの身体にぶつける。
その衝撃でタコワサキングは転びそうになるが、何とか右足でバランスを整えようとする。
もう一度両足を地面につけると、今度は右腕でロケットパンチを放った。
プシットはこれも撃ち返すと、再びタコツボキングはバランスを崩した。
「ギギギ……!」
タコワサはタコツボキングの左腕をドリルのように回すと、プシット目掛けて突っ込んでいった。
何とかそれをかわしたプシットは、地面にめり込んだ腕を撃ち返す。
「まずは一発!」
もう一発のパンチを当てるとタコワサはタコツボキングから飛び出した。
プシットはタコワサを攻撃し、着実にダメージを与えていった。
「ギギ ヨクモ サイシン キノウ……ジュンビ!」
タコワサはタコツボキングの中央の掃除機からインクをみるみるうちに吸い取った。
おかげで地面は元に戻ってしまい、もう一度塗り直さなければならなかった。
「キューインキ! インクを吸い取るんですか!?」
今、キューインキが作動しているため、インクは吸い込まれてしまう。
止めるためには、何かで塞がなければならない。
キューインキはインクを吸い込むと、射撃モードになってプシットに放った。
「わっと!」
インクはまるで花のように開花して爆発する。
避ける事はできたが、被弾していたらただではすまなかったかもしれない。
「何かを投げ込めば、塞げるはずですが……。そうだ、ラクス!」
そう言ってプシットはラクスを持ち、思い切りキューインキに投げつけた。
ラクスはキューインキに吸い込まれ、ノズルに詰まって吸引できなくなった。
「ギ……キューイン デキナイ!」
「よしっ!」
プシットはドリルパンチをかわして撃ち返し、飛んでくるパンチを撃ち返した。
しかし衝撃でラクスがキューインキから飛び出す。
「ヨケイナモノ、ツマラセルナ!」
「油断するでないぞ!」
「分かってます、アタリメ!」
今度はタコツボキングが反撃を仕掛けてくる。
プシットはラクスでキューインキを塞ぎつつ、タコツボキングのパンチを撃ち返す。
「コレナラ ドウダ!」
次に、タコツボキングが放った腕が手を開いて地面に叩きつける。
広範囲にインクの衝撃波が飛んでいく。
プシットはすぐに衝撃波をジャンプでかわし、タコツボキングの腕を撃ち返す。
何度も撃ち返したためタコツボキングの耐久力は残り僅か、倒れるのも時間の問題だ。
「これで終わりです!」
スペシャルが溜まり、とどめを刺すなら今だ。
プシットは勢いよく大ジャンプして、無防備なタコワサを吹き飛ばした。
「ヤ……ラ……レ……タ……」
タコワサが断末魔を上げると、タコツボキング局地戦仕様を光が包み、大爆発と共にタコワサ諸共墜落した。
「ギギッ……ナント ツヨイ ソウビダ!!」
「そうですね……でも、装備だけじゃなくて、ラクスの力もあったんですよ」
プシットは決して一人では戦っていない。
ラクスがいたからこそ、タコワサを懲らしめる事ができたのだ。
墜落したタコワサの様子をアタリメはじっと見る。
「むぅ……? オオデンチナマズを持っとるワリに弱いのゥ。タコワサ、耄碌したんか?」
「オオデンチナマズ ナンテ シラナイゾ!」
「むむッ?! そうなのか?」
どうやらタコワサはオオデンチナマズを盗んだ犯人ではないらしい。
やはり、この事件にはイカでもタコではない、第三者が関わっていたのだ。
「どうもおかしいと思っていましたよ。本当に盗んだなら、もっと激しく襲ってきたはずなのに。それに、しもべ達が失踪って、タコワサも困っているようでした」
「いや、しかしのゥ。ほんじゃ、一体誰が……」
「待ってください!!」
プシットがそう言うと、突然、三人の周りで地面が揺れる音がした。
地面の上からはケバインクが現れようとしていた。
「ぬぉ! ケバインクが!!」
ケバインクが現れた衝撃により、クレーターの地面が破壊されていく。
「うわっ!」
「なんじゃなんじゃ?!」
「アタリメ、タコワサ! 逃げてください!」
大量のケバインクが、タコツボキングを包み込む。
危機感知能力が高いプシットは、すぐにその場から離れようとしていたが、時既に遅し、クレーターの崩壊に巻き込まれた。
三人はクレーターより、さらに底へと落ちていく。
「プシット~~~~助けてくれ~ィ!」
「アタリメ……!」
プシットは右手でペンダントを握り締めながら、左手でアタリメを助けようとする。
だが、プシットの手はアタリメには届かない。
アタリメの体に毛むくじゃらの太い腕が巻き付き、そのまま彼を連れ去っていった。
パリン、とプシットのペンダントの石が砕け散る。
そして、プシットの意識は、闇に沈んでいった。
――クレーターの奥底を、三つの影が見つめる。
一人は、白い鮫の面を被ったタコの女。
もう一人は、灰色のウツボの面を被ったイカの女。
そして最後の一人は、鬼の面を被ったマンタ族。
「あの光……間違いなくお宝どすえ」
「ワシらのものにすれば、バンカラのためになるじゃろう」
「エイ!(負けないぞー!)」
彼らは、プシットの胸に光るペンダントを、獲物を見つけたような目で見据えていた。