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第4話 もう一つの地球

「……ラクス……ここは……」

 ラクスに起こされたプシットは気が付くと、見知らぬ場所に横たわっていた。

 ヒーロー装備は少し汚れたものの無事だったが、胸にかけていたペンダントの石が一つ消えていた。


「僕、さっきまでクレーターにいたのに……。あれ? アタリメはどこにいるんですか?」

 プシットはアタリメを捜したが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。

 代わりに広がるのは、網目模様に広がった空、真っ白な雪、青い海、そして見た事がない建造物。

 向こうのロケットは剛毛で覆われ、各地にはケバインクが飛び散っている。

 かつて、この地球に存在した者が築いたものだろうか。

 この地はまるで、かつての地球のように思える。


 試しにヒーローシューターを撃ってみたが、今までと同じ感じで撃つ事ができた。

 ヒーロー装備には、傷一つついていなかった。

「よかった……」

「……ぉーい……」

 一安心したプシットだったが、小さく、自分を呼ぶ声が聞こえる。

 それは、老人の声ではなく、女性の声だった。


「おーーい!」

「プシット! プシットー!」

「あ……あなた達は!」

 プシットを呼んでいた女性の正体は、アタリメと通信していたアオリだった。

 彼女の隣には帽子を被ったインクリング、そのインクリングの傍にはホタルがいた。

「よかったー、無事みたいだねっ!」

「あなた達が、通信していた1号と2号ですか。ところで、そこにいるのは誰ですか?」

「New!カラストンビ部隊の新司令・セピアだよ。今までは3号って呼ばれてたけどね」

 プシットはアオリ、ホタル、セピアの姿を見る。

 彼にとって三人の姿を見るのは初めてで、プシットはどぎまぎしていた。

「話はセピアから聞いたよ。キミがじーちゃんに任命されたプシットと、コジャケのラクスちゃんね」

「じーちゃん?」

「そ! アタシと2号はじーちゃんの孫娘なんだ!」

「ちなみにアタシと1号は、双子じゃなくて従姉妹だからね」

「道理で似てると思いました」

 アオリとホタルの顔立ちはそっくりで、はたから見れば双子の姉妹と間違えるほどだ。

 博識なプシットは、冷静に小さく頷いた。

「ふむ。確かにいい目をしているな」

「え? あ、はい……ありがとうございます」

 新司令のセピアは、帽子で威厳こそあれど、その顔立ちは少しあどけなかった。

 プシットは緊張して、顔を赤くした。


「そんなわけで、アタシ達がNewーーーー! カラストンビ~部隊っ!!」

 アオリ、ホタル、セピアが一斉にポーズを取る。

 どうやらこれが、New!カラストンビ部隊流の挨拶らしい。

「ははは……;」

 プシットは三人を見て苦笑した。

 その様子が、どこか滑稽だったからだ。

「オホン。……どうやら、おじいちゃんは落ちた時にはぐれちゃったみたい」

「ですよね……」

 プシットはアタリメが太い腕にさらわれる様子を目の前でしっかりと見た。

 あの太い腕は何をしでかすか分からない。

 きっと、アタリメを利用するつもりだろう、とプシットはその頭で考えていた。

「ここは見た感じ、凄い広いし、ケバインクがケバり散らかしてるみたいなんよ」

「あのクレーターにあった、ケバインク……」

 プシットはそのケバインクの傍に駆け寄った。


「……!!」

 ケバインクの傍には、全身が茶色い毛で覆われたインクリングだったものの姿がある。

 それを見たプシットは、急に気分が悪くなった。

「ど、どうしたの、プシット?」

「い、いえ、何でもありません……。でも、アタリメは何かされそうですね」

「ああ、キミの言う通りだと思う。さらわれたジジィは碌な目に遭ってないからな」

「ちょっ、ジジィって……」

 プシットは知識、セピアは経験で、アタリメが何かされそうな事は予測していた。

 あの第三者が、そのまま黙っているとは考えられないからだ。

「オオデンチナマズについては、タコワサは知らなかったようです。だとしたらこの事件の犯人は、やはり……」

「別の誰か、だろうな」

 この事件にはイカでもタコでもない、別の存在が関わっている可能性が高い――プシットとセピアはそう結論付けた。


「そんなわけで、お願い! じーちゃんと……それから、オオデンチナマズを探すのに協力して!」

「分かってます。これは僕がやった事ですしね」

 プシットはアオリの依頼を二つ返事で引き受ける。

 自分で決めた事だから、自分自身で決着をつけなければならないからだ。

「さっすが! じゃあ、イカ、よろしく~~~!」

 再びアオリ、ホタル、セピアは決めポーズを取る。

 プシットは苦笑しつつも真剣な表情で、この「もう一つの地球」を探索するのだった。

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