第5話 その名はオルタナ
クレーターから謎の場所に辿り着いたプシットは、アオリとホタルと共に謎の場所を歩いていた。
セピアは足が痛いため、まだゆっくり歩いていた。
「ウチらもちょっと前に着いたばっかだけど、分かった事を共有しとくわ~。クレーターの下に広がってるこの空間はオルタナって名前らしいんよ」
「……オルタナ?」
もう一つという意味である、オルタナ。
だとしたらここは、もう一つの地球なのだろうか。
「で、オルタナには『サイト』って呼ばれる島がここも含めて全部で六つあるみたい」
「あと、中心に謎のロケットがあるね。すっごくデカい!」
このオルタナは、中心のロケットと、六つのサイト(島)で構成されている。
今、New!カラストンビ部隊がいる場所は、このサイト1「みらいユートピアランド」らしい。
「ジジィに持たせた発信機らしき強い反応が三つもある。プシット、その三ヶ所の調査を頼む。調査のため、マップ機能を強化した」
「これですか?」
プシットがメニューを開くと、そこには灰色に覆われたサイトのマップが映っていた。
「行ったことある場所は勝手に記載されるし、なんかありそうなら光るかんね」
「お宝とかあるかな?」
「多分、あるんでしょうね」
「1号、探すのはおじいちゃんとオオデンチ……」
「あれ? イクラが……ない?」
プシットは自分の装備を調べてみたが、イクラを全て失っていた。
どうやら、オルタナに落ちた時に、ばら撒いてしまったようだ。
まぁ、最新鋭のヒーロー装備が無事なだけ、プシットはマシだと思った。
「どうやら、イクラはここに落ちた時に、全部なくしちゃったみたいだね~」
「ばら撒いちゃったイクラはまた集めよっか。それにしても、あんな衝撃でよくヒーロー装備が壊れなかったね」
「理由はよく分かりませんが……」
ペンダントの石が砕け散った代わりに、最新鋭のヒーロー装備は壊れずに済んだ。
テンタクルズのペンダントが守ってくれたのだが、そんな事はアオリもホタルも知る由がない。
唯一、セピアだけはプシットがかけているペンダントに注目していた。
「ふむ、そのペンダントはなんだ?」
「あ、それは……」
セピアはプシットのペンダントをしげしげ見渡す。
どうやらセピアは、プシットのペンダントが気になっているようだ。
一通り見渡すと、セピアはプシットにこう言った。
「恐らく、このペンダントはタコが作った物だろう。この精巧な作りは、イカにはできないからな」
「……そうですね」
テンタクルズが渡したとは言いたくない。
イカとタコが共存しているとはいえ、そういうのはあまり明かしたくなかった。
「僕の育ての親ですからね、タコは」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何でもありませんよ」
プシットはオルタナの近くの薬缶を開けた。
「ジジィらしき反応が隣のサイト2にあるぞ」
「当面の間はイクラを集めて、サイト2に行く道を作りましょうか」
「気を付けてね~、プシット~!」
この薬缶の中に、アタリメの手掛かりはある。
プシットは意を決して、コジャケのラクスと共に薬缶に入った。
・オルタナという楽園へ、ようこそ。
「……何か聞こえない?」
「言われてみれば……」
その空間は、かつてポリュープが行った事がある「深海メトロ」を彷彿とさせるものだった。
黄色いチューブが巻かれていて、目の前にはモニターがある。
さらに、空間から謎の音が響き渡り、プシットは辺りを警戒していた。
《……を起動。システムチェック……OK。認証デバイス……正常。生体スキャン……スタート》
「……」
プシットの生体スキャンが行われ、彼はますます、警戒心を強めている。
《スキャン完了……データベースに該当なし。新規登録シーケンス スタート》
「あの、僕に何をするんですか?」
急に生体チェックが行われたため、プシットは困惑していた。
音声は彼を気にせず、生体チェックを続ける。
《……ガ……ガココ……コッ》
「もしもし?」
《こんにちは、わたしはイルカ。オルタナ市民プログラムのナビゲーターです》
「イルカ!?」
『わ! 何か喋ったよ』
確かイルカは……いや、そんな事はどうでもいい。
プシット達は“イルカ”が喋った事に驚いていた。
《オルタナへようこそ。初めに参加者の情報を入力してください》
どうやらイルカはオルタナのナビゲーターらしく、プシットはすぐに納得して頷いた。
『ここのシステムっぽいね。とりま、話聞いてみよっか、プシット』
《……ピロリン♪ 名前の入力を受け付けました。ご参加ありがとうございます、プシット様。
本プログラムでは、オルタナ各地のミッションによってあなたの知力と体力を測定します。ミッションをクリアすると優れた市民として認定され、イクラが支給されます。
初回のみ、支給されるイクラが大盛りとなります。奮ってご参加ください》
『へぇー、イクラが貰えるんだ!』
『おじいちゃん探すのに役立ちそうやね』
『……何故、イクラ?』
報酬がイクラの理由がセピアには分からなかった。
イクラはラクスのエネルギー源らしいが、それにしてはどうもおかしい。
何故、オルタナでイクラが貰えるのだろうか……。
《なお、多くのミッションをクリアするほど、機密資料である「オルタナログ」へのアクセス制限が解除されていきます》
『オルタナログ……』
もしかしたら、この謎めいた世界であるオルタナの秘密が分かるかもしれない。
セピアは、オルタナの秘密を探ろうとしていた。
《オルタナログは機密資料なので、無許可での公開が禁止されています。情報の取り扱いにご注意ください》
『分かってるよ。誰にも言わなきゃいいんでしょ?』
『とにかく、外のケバインク何とかするためにも、イクラは集めといた方がいいね。なんか登録? されちゃったし、ここは任せたよ、プシット』
「了解です」
このオルタナの謎を知るため、プシットは頷いた。
《それでは、足元の装置を起動します。今回のミッションで使用するブキを選んでください》
イルカの音声と共に、プシットの足元を装置が包み込む。
選べるといっても、選べるブキは一つだけなので、プシットはその一つ、ヒーロー装備を選んだ。
それを選ぶと、プシットを包む装置が引っ込んだ。
《あちらのゲートをくぐるとミッション開始です。このミッションは無料でチャレンジできますが、ミッションによってはチャレンジにイクラが必要です》
「……ラクス」
プシットはちらっとラクスを見る。
ラクスは空腹そうな様子で、そう何度もつまずきたくないと思った。
《イクラはゲートにてお支払いください》
「イルカ?」
《……ユーザー名:プシットの登録シーケンスを完了。活動データの収集及び分析の開始。では、グッドラックです》
そう言うと、イルカの通信はぷつりと、途切れた。
『……あ、終わったみたい? よーし、プシット! 気張ってこー!!』
「了解です!」
プシットは早速オルタナ探索の第一歩を踏み出す。
ヒーローシューターは連射でき、いつの間にかサブウェポンのボムも使えるようになり、敵の居場所を察知できるため、探索はスムーズに行えた。
(ありがとうございます、テンタクルズ)
ヒーロー装備を故障から守ったのは、テンタクルズが渡したペンダントだ。
プシットは探索中も、彼女達に感謝していた。
様々なものが置いてあり、それを利用しながらオルタナを探索し、プシットは見事ゴールした。
「はい、報酬のイクラです」
無事に一つ目の薬缶を攻略したプシットは、報酬のイクラを手に入れた。
あちこちにある大量のケバインクは、ラクスがどうにかしなければならないし、どうにかするにもイクラが必要だ。
だから、着実にミッションをこなして、イクラを手に入れてオルタナを探索する。
それが、今のプシットの目的だった。
「ラクス、頼みますよ」
プシットはラクスにイクラを与え、目の前のケバインクを食べてもらった。
ケバインクに触れるとああなってしまうため、プシットはより一層警戒するようになった。
「そういえば、オルタナログって……」
そんなものをイルカが言っていた気がする。
プシットがオルタナログを確認すると、そこには六つのログがあった。
文字化けしていたが、一つ目のタイトルを見て、その場にいた全員が驚愕する。
何故なら、そのタイトルは、イカ達にとって衝撃のものだったからだ。
『逃げ延びた人類』
「……どういう事だ? 人類が……逃げ延びた?」
人類は12000年前に滅亡したはずなのに、その人類が、逃げ延びているだなんて。
アオリとホタルは信じられないといった表情だ。
「分かりません。ですが、ミッションをクリアすればオルタナログの全貌が分かるはずです」
「……ふむ、そうだな。では、プシットよ。サイト1のミッションを全てクリアせよ」
「了解です!」
・小鳥が集う、憩いの場をあなたに。
・驚きをまとう、建築の美学。
・扉を開けた先で、真の上質に出会う。
・日々の彩りに、素敵なモニュメントを。
・オルタナの高層を住みこなす、その贅沢。
・大切なパートナーと、心を通わす快適空間。
・宇宙の中心が、ここにある。
・くつろぎと、開放感。木漏れ日のプロムナード。
順調にこなしていくプシットだったが、ある一つの薬缶だけは一発で突破、かつ無傷とはいえ良い印象ではなかったようだ。
・夜景に包まれ響き合う、レジデンス協奏曲。
ブキがないのにタコの攻撃が激しいため、プシットは上手く避けるのが難しかった。
攻撃をギリギリまで引きつけ、高く飛んで避ける、というのを繰り返して衝撃波を避けたのだ。
結果、突破した時はかなり疲労したという。
「お疲れ様、プシット~」
「もうこういうのはこりごりです」
サイト1の薬缶を全て攻略したプシットは、一つ目のオルタナログの解析を終えた。
プシット達は、早速オルタナログの全貌を見る。
かつて、人類は技術の発展で繁栄したが戦争が起こり、全世界を巻き込むようになった。
戦争の余波で地上の生物が滅び、火山の噴火や海面上昇などの天変地異も重なり、大量絶滅が起きた。
結果、地上は誰も生きられない死の大地となった。
それでも僅かに生き残った人類は、爆発的な噴火でできた大空洞に逃げ込んだ。
その中には海から流れ込んだ海水が溜まっており、そこではイカやタコ、クラゲなど、海洋生物が大量に繁殖しており、
地球の破滅後に生き残った僅かな人類の栄養源として重宝されたという。
「人類が滅亡した原因は海面上昇だけだったはずだ。それに、博士の存在が見当たらない……」
「博士?」
「ジャッジの飼い主だった博士だ」
プシットは博士について知らなかったが、セピアは博士の事を断片的に知っていた。
海面上昇の危機を訴えたが誰にも信じてもらえず、せめて自分が存在した証として、ペットのジャッジに不死の薬を投与し、コールドスリープ装置に入れた。
また、ポリュープがいた地下施設やタルタル総帥、コジャッジを作ったのもこの博士だという。
「もしかしたら、博士はオルタナには関わっていないかもしれない。だが……」
博士の存在を知った後、プシットは項垂れた。
「人類はこんなにも過ちを犯したんですね……」
「そうだな……だからこそ、イカやタコはこのような過ちを犯してはならないのだ」
ポリュープも、タルタル総帥と戦った時、過ちを犯さないように誓った。
それは、かつてポリュープと戦った、セピアにも受け継がれているようだ。
「僕……そんな地球にはしたくありません」
「やはりキミはいい目をしている。ジジィがキミをNew!カラストンビ部隊に選んだのは正解だったな」
「僕達は必ず、より良い地球にします。博士を含めた人類の悲劇を教訓として」
過ちは、決して繰り返してはならない。
プシット達、今に生きる魚介類は、もう一つの地球でそう誓うのだった。