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第8話 テンタクルズの推理

「プシット、お疲れ様ー! じーちゃんはいなかったみたいだね……」

「僕のペンダントも、彼女は持っていませんでした。ウツホは持っているとは言ったようですが……」

「とりま、いただいたオタカラはここに置いとこか」

 ウツホを倒し機械を手に入れる事はできたが、彼女はペンダントを持っておらず、アタリメの姿も見当たらなかった。

 仕方なく、プシットはオルタナのサイト1に戻り、機械を置いてこれからの作戦を考えようとすると。


―……たし。


 突然、アタリメの声が通信機から聞こえてきた。


「アタリメ?」

『応答されたしーー!』

「あ、おじいちゃんからの通信!」

 どうやらアタリメは生きているようだが、彼が無事かどうかは分からなかった。

 プシットは真剣な表情で、通信機から流れる音声を聞く。

「じーちゃん、今どこにいるの!?」

『おヌシら、無事じゃったか!』

「……まあ、妨害はありましたけど……」

 プシットは疲れた声で、アタリメにウツホを退けた事を報告した。

 ウツホとの戦いが激しかった事を物語るように。

「この通り、隊員は皆、生存している」

『ここは真っ暗でよう分からんが、狭い部屋のようじゃ……。何とか脱出できんか試してみるわィ』

 セピアが状況を報告すると、アタリメは自身の現在を報告する。

「……無事ではなさそうですね」

 アタリメが閉じ込められている事を知ると、プシットの声色が冷静になる。

「こちらも探してみる、無理はするな。何かあれば報告せよ」

 セピアがそう言うと、通信はプツリと切れた。


「では、次の反応を調べに行こう」

 アタリメがどこにいるのか、まずはそれだけでも知りたい。

 しかし、そのためにはオルタナを調べ、反応が強い場所を探さなければならない。

 プシットのペンダント探しも兼ねて、New!カラストンビ部隊は次のサイトに向かうのだった。


 ――ここで、時間はプシットがオルタナに落ちる前に遡る。

 ワールドツアー中のテンタクルズは、どこかで短い休みを取っていた。


「先輩、何となく向こうが騒がしいと思うんですが」

「向こうって……あの電車を通った先の事か?」

 ヒメが言った「電車」とは、バンカラ街とハイカラスクエアを繋ぐオールドハイウェイの事だ。

 彼女達はバンカラ街からは遠い場所にいるが、ポリュープの一件があって、何となくであっても危機を感じ取ってしまう。

「はい。何だかワタシ、嫌な予感がしまして……」

「一体、イイダは何を感じたんだ?」

「この地球が今、大ピンチって事です」

「な、何っ!?」

 イイダはこの地球に迫る危機を感じ取っていた。

 どう考えても大ピンチではなさそうなのに、確かにイイダは大ピンチだと言っていた。

 だが、知能が高いイイダの言葉は、ヒメにとって説得力があった。

「まさか、またタコとかタルタル総帥とか……?」

「それはありません」

 イイダは首を横に振って、自分の推理をヒメに伝えた。

「タルタル総帥はポリュープさんが止めました。ワタシ達も今はある程度共存しています。それに、もうネル社はないと聞きました。だとしたら、犯人はある程度予測できます」

「タコでもネル社でもない……まさかニンゲンか?」

「とっくに絶滅したのに何を言うんですか。でも、ニンゲン……いえ、“哺乳類”が関わっている可能性はありますね」

 イイダ曰く、この地球の危機は二匹の猫を除き絶滅した(はずの)哺乳類が関わっているらしい。

 彼女が「哺乳類」を強調していたのは、その哺乳類こそが原因だという。

「この地球に、あいつら以外哺乳類はいないだろ? そいつらのせいで地球が大ピンチ? あぁぁ、もう、全然分かんねー」

 ヒメはイイダの推理に頭を抱えて唸った。

 インクリングの彼女には、頭が良いイイダの推理が分からなかった。

「先輩、地球がまた大ピンチなのに、放っておいていいんですか?」

「いや、そういうわけじゃねーんだが……哺乳類が地球を滅ぼすなんてあり得ねーだろ?」

「それがあり得るかもしれません。このままじゃワタシ達も滅んでしまいます。先輩、一緒に何とかしてください!」

 しかし、イイダはヒメを放っておけず、またこのままでは地球が滅んでしまうため、彼女に協力を要請した。

 ヒメは訳が分からず混乱していたが、地球の危機と言ったならば見過ごせなかった。


「……分かったよ。それじゃ、お守りを作るぞ。お守りなんてどうも信じられねーが、気休め程度なら大丈夫だろ」

「先輩……そんな事を言ったら、お守りが守ってくれませんよ……」

 自分達はワールドツアー中で忙しく、バンカラ街に行くのは先になりそうだ。

 だから、自分達にできる事は、ファンの応援くらいしかなかった。

 そのための手段として、二人でお守りを作ろうとしたのである。


「じゃ、お守りの形はワタシが作りますので、先輩は反復横跳びで気合を溜めてください」

「迷惑にならねー程度にやるぜっ」

 いくらクレイジーであっても、ヒメは他人に迷惑はかけないようにする。

 イイダに言われた通り、迷惑にならない程度に軽く反復横跳びをする中で、イイダはせっせとお守りを作る。

 かつてポリュープが地下を脱出する際に用いたグルーヴチャージの技術を使い、心を込めて、かつ丁寧にペンダントを作るイイダ。

(きっと、今より冒険は辛くなるでしょう。でも、ワタシはみんなを信じてます。ポリュープさんがハイカラ地方を救ったみたいに)

 イイダはポリュープの冒険を思い出しながら、一生懸命に手を動かした。

 後に現れる新たなヒーローも、ポリュープのように活躍する事を願って。


「できました!」

「おおー!」

 こうして、テンタクルズのお守りは完成した。

 ヒメを表す白、イイダを表す黒の石がついたペンダントはキラキラと光り輝いている。

「でも、これ、本当に効くのか?」

「安心してください。このお守りにはグルーヴチャージの機能を使っています」

 イイダ曰く、ポリュープが脱出できなかったら本当に死んでいたらしい。

 そこで、グルーヴチャージを使って、死ぬ前に時間を巻き戻して事なきを得るという。

「だから大丈夫だと思います。信じてくださいね」

「はいはい。んじゃ、届けるか」

 ヒメは箱を用意すると、ペンダントを入れる。

 この箱もイイダが改造したものであり、敵対勢力に渡らないようになっているので、安心していいだろうと二人は思った。


「これで、後は届くのを待つだけですね」

「ああ……どうか、地球を救ってくれよ!」

 そうして、テンタクルズの箱は、辺境のどこかへと飛んでいった。

 後にイイダの推理が的中する事になるとは、テンタクルズはまだ、知る由もなかった。

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