第3話 その名はコトリバコ
レイモンドは、町で都市伝説の調査を続けていた。
町の人曰く、とある箱こそが、都市伝説の呪いと関わっているらしい。
医者であるレイモンドはオカルト知識はなく、そもそも都市伝説など「あり得ない」と思っていたのだが、数々の人を救う中で都市伝説は実在すると確信した。
「まったく、都市伝説というのは、人を傷つける存在でしかないのに……」
レイモンドはほとほと呆れながら、町の調査を続けようとした。
すると、レイモンドはある人物の呟きを聞いた。
「そういえば、あの神社に行けば、呪いを解いてもらえるとか」
「神社……?」
そこは、都市伝説と関係があるのだろうか。
レイモンドは急いで、神社に急ぐのだった。
原因不明の腹痛を起こした啓介は、神社に行って原因を調べてもらおうとした。
神社の境内は清掃されていて、若い神主がいる。
「あなたは……」
「申し訳ありません。昨日からお腹が痛くて……」
腹を押さえながら啓介が神主に説明する。
神主は怪訝な顔をしていたが、しばらくして、腹痛の原因について説明しようとする。
「おい」
「な、何をしに来た」
その時、レイモンドが神社にやってくる。
彼の事情を知らない啓介はレイモンドの姿を見て警戒する。
「勝手に割り込んですまなかった。オレは都市伝説の呪いを調査している。お前の敵ではないんだ」
レイモンドが啓介に事情を話すと、啓介は警戒心を何とか解いた。
その後、二人は神主に改めて事情を説明し、神主は啓介の腹痛の原因を話した。
「それは恐らく、『コトリバコ』という都市伝説でしょう」
「コトリバコ……?」
「子を取る箱、すなわち子供を呪う箱です。この箱を送り付けられた者は、内臓を引き裂かれて死にます」
「「!!」」
啓介の腹痛の原因は、コトリバコだという。
一刻も早く呪いを解かなければ、啓介は死んでしまうらしい。
「くそ、なんという事だ……!」
レイモンドは歯を食いしばりながら、コトリバコの呪いを解く事を決意した。
「神主さんはコトリバコの呪いを解けますか?」
「私にそれを払う力は……申し訳ありません」
そう言った神主は、逃げるように去っていった。
「神主でも払えない呪いか……だとしたら……」
啓介はこのまま死んでしまうのだろうか。
しかし、レイモンドは子供を救うのが目的だ。
都市伝説の呪いに翻弄されたくない、何が何でも子供を救いたい……そんな思いが、レイモンドを動かしていた。
「箱を壊すわけにもいかないしな」
そもそも、コトリバコは簡単に壊せるのだろうか。
それ以外に呪いを解く方法はあるはずだ、とレイモンドは考えている。
「ちょっと待っててくれ」
「ああ」
レイモンドは啓介を外で待たせた後、神主の目を掻い潜って神社の蔵に行った。
蔵の中は様々な道具が整頓されており、その奥にはこの場に似つかわしくない書類の棚がある。
棚に目星してみると、とても古い資料が見つかる。
調べてみると、こんな事が書かれていた。
■××神社の成り立ち■
かつて、この地域には祟り神がいた。
その神を鎮めるために、ある男が呪いの箱を作り出した。
呪いの箱は子供の贄が必要であったため、男は忌み嫌われてその場を立ち去った。
その後、呪いの箱はご神木の下に埋められた。
「その呪いの箱が、コトリバコか……」
レイモンドのメスが光っている。
コトリバコがいつ解放されたかは分からないが、ともかく、放っておくわけにはいかない。
「お前はしばらく大人しくしていろ」
「あ、ああ……」
啓介と別れたレイモンドは蔵を後にし、神社を去ろうとすると、白いフードの少年と茶髪の少女と出会った。
「お前達は……」
「名乗る名前はない」
「いや、オレは都市伝説から子供を助けたいんだ」
「「!?」」
都市伝説から助けたい、その言葉を聞いた少年と少女の胸が強く揺さぶられた。
闇医者は信用ならない存在だというのに、信用を得る事ができたのだ。
「……都市伝説から助けたい……まさか君も、くねくねを追いかけているのか?」
「違う。オレが追っているのはコトリバコだ」
「コトリバコ? 聞いた事がないわね」
少女は首を傾げている。
「コトリバコというのは……子供を呪う箱だ。そのせいで、啓介が腹痛に襲われた。頼む、一緒にコトリバコを何とかしてくれ」
レイモンドは簡潔に少年と少女に事情を話す。
腹痛を放っておいた場合、やがて内臓を引き裂かれて死んでしまう事を。
「分かった。僕が回収すればいいんだな?」
「……回収?」
「この赤い手帳さえあれば、どんな都市伝説の呪いも回収できる」
少年は血のように赤い手帳を持っていた。
彼によれば、この手帳を使えば、呪いのマークを回収する事ができるという。
だが、レイモンドが手帳をちらっと見ると、手帳が僅かに黒ずんでいるのに気づく。
何故黒ずんでいるのかは分からなかったが、少年が危険な目に遭う事だけは分かった。
「回収するのはやめろ」
「どうして回収しちゃいけないんだ?」
「お前の身に良くない事が起こるからだ。お前達はオレについていくだけでいい。コトリバコの呪いはオレが何とかする」
レイモンドは少年を守ろうとした。
少年はムキになるかと思ったが、素直に頷いた。
「分かった。呪いの件は君に任せよう。そういえば、君の名前は?」
「オレはレイモンドだ」
「相川雷太」
「紺野沙知子よ。いざとなったら、この竹刀で守ってあげるからね」
そう言って沙知子は竹刀を抜く。
レイモンドは頼りになりそうだ、と思った。
「それじゃ、よろしくね、レイモンドさん」
「よろしく……レイモンドさん」
こうして、レイモンド、雷太、沙知子は、コトリバコを追いかけるのだった。
雷太としては、都市伝説を回収できないのが不満になっているだろう。
しかし、大人のレイモンドから警告されては、素直に頷くしかないのだった。