第4話 呪いを知れ
コトリバコの呪いを解くため、レイモンドは相川雷太という少年と、紺野沙知子という少女と同行した。
「そもそも、コトリバコの詳細を知らなかったら、どうやって対処するのか分からないな」
「そうだな、まずは図書館に行かないと」
レイモンド、雷太、沙知子は図書館に行き、コトリバコについて調べていた。
呪いを知らなければ対処ができないからだ。
レイモンドから忠告を受けた雷太と沙知子は、余計な事をしないように大人しくした。
「ん?」
レイモンドがある本棚に目をやると、古い手書きの本を見つけた。
「見つかったのか?」
「ああ、これを読んでくれ」
そう言って、レイモンドは三冊の本を見せた。
それぞれ一冊ずつ、レイモンド、雷太、沙知子が読む事にした。
「呪いの箱、つまりこれはコトリバコの事か?」
レイモンドは旧××神社の伝承を読んでいた。
昔、この神社だった場所では、悪しき祟り神を退けるために呪いの箱を作っていたらしい。
強大な呪いを持つその箱は、あらゆる人間に災いをもたらす。
呪いを解くには、新たな箱にその呪いを封印しなければならない。
何故なら、この箱に、呪いの刻印は施されていないからだ。
「……呪いの刻印……もしかしたら……」
「ここが、旧××神社に行くための地図か」
雷太はこの町にあるもう一つの神社に行くための地図を見ていた。
この神社は、コトリバコと関係があるらしい。
「呪いの箱って、どうやって作られているのかしら」
沙知子は呪いの箱の作り方について読んでいた。
箱を家畜の血で満たした後、子供の身体の一部を中に入れる。
最大八つまで入れる事ができ、入れた数に応じて呪いは飛躍的に高まる。
イッポウ、ニホウ、サンポウ、シッポウ、ゴホウ、ロッポウ、チッポウ、ハッカイの順に。
あらゆるものを破滅に追いやるその箱――その名を、子取り箱という。
「え……じゃあ、あの箱の中身って……」
本を読んでいた沙知子は思わず吐きそうになるが、何とか己を保とうと気を強く保った。
「コトリバコについて何か分かったか?」
「うん」
「……」
あの本を読んだ沙知子は少し顔が青くなっていた。
コトリバコの中身が子供の身体の一部だなんて、雷太どころかレイモンドにも言えないからだ。
レイモンドは沙知子の心が分からなかったが、深く追求しない事にした。
「ありがとう。それじゃあみんな、呪いを解くために旧××神社に行こう」
「そうね、レイモンドさん」
「都市伝説の呪いなんて、倒してやる」
こうして四人はコトリバコの呪いを解くため、旧××神社に歩いて行った。
その頃、コトリバコの呪いを受けた啓介は、相変わらず腹を押さえて苦しんでいた。
「うぐっ……うぅぅぅっ……」
啓介はレイモンドを信じつつも、自らの呪いに苦しみ続ける。
このままでは、内臓を引き裂かれて死んでしまうのだろうか。
何とかしたいところだが、一般人の啓介にはどうしようもできなかった。
そんな彼の様子を見ていたのは、青い傘を差した男と、顔がない黒いフードの少女だった。
「力がなければ、呪いには勝てないのですよ。まあ、そんな人なんて、この世界にはいないんですけどね」
「ぐ……くそ……ぉっ……!」
場面はレイモンド、雷太、沙知子に戻る。
雷太が読んだ地図を参考に、三人は旧××神社でコトリバコの呪いを解こうとしていた。
今の神社の裏にある山の中に建っており、数年前まで××神社だった場所だ。
「早くしないとあいつが死んでしまうからな。医者として、それは見過ごせない事だ」
「あ、そうか、レイモンドさんは医者だったんだな」
石階段を上って鳥居を潜ると、境内には本殿と古めかしい蔵がある。
境内は小綺麗で、落ち葉や雑草はなかったが、奥の林の方まで続いているようだ。
「ここにコトリバコの呪いを解くものがあるのかしら……?」
そう言って、沙知子が足を踏み入れようとした時。
「待て!」
「えっ!?」
「そこか!」
レイモンドは木々の間に向けて威嚇した。
すると、そこから蠢く物体が姿を現した。
「雷太、沙知子! 見るんじゃない!」
レイモンドは雷太と沙知子を庇うように立つ。
見るだけで正気を失うものなので、子供の二人に見せるわけにはいかないからだ。
「ど、どうして?」
「それを聞く必要はない。オレが何とかする!」
そう言って、レイモンドはメスを構えた。
縄のように蠢く触手を持った異形をよく見ると、腹の辺りから紐のようなものが垂れている。
レイモンドにはその正体は分からなかったが、こちらに敵対的なのは変わらない。
「そこをどけ!」
異形の身体をメスが切り裂くと、怯えた異形はどこかに去っていった。
「さあ、今のうちに蔵や本殿を調べるんだ」
「ああ!」
三人はすぐに蔵に向かった。
中は埃っぽく、古びた道具が乱雑に並んでいるが、その中に、状態の良い壺が五つ並んでいる。
レイモンドはその壺に目星をつけ調べようとした。
「……!?」
壺の中は、生臭い液体――血液で満たされていた。
そこには、黒ずんだ空の木箱が浮かんでいて、レイモンドは一瞬だけ吐き気を催した。
「どうしたの、レイモンドさん!?」
心配した沙知子がレイモンドに駆け寄る。
「……変なものを見ただけだ」
二人の子供に心配はかけたくないレイモンドだが、恐怖で少しずつ精神は削られていた。
だが同時に、レイモンドは呪いへの対策も思いついていた。
(……もしかしたら、この箱で新たな呪いの箱を作れるのかもしれない。そして、その箱をどうにかすれば……)
都市伝説の呪いは完全に解けないかもしれないが、呪いに苦しむ啓介を救う事はできるだろう。
レイモンドは雷太と沙知子に振り返ると、真剣な表情でこう言った。
「本殿に行こう。コトリバコの呪いを解くんだ」
「レイモンドさん……。分かった、協力しよう」
「何かあったら、私が励ますからね!」
「二人とも、ありがとう」
頼もしい仲間を持って、レイモンドは微笑む。
闇医者は孤独だが、その孤独を癒してくれる子供の姿に、レイモンドは安心するのだった。