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第5話 連鎖を断つには

 コトリバコの呪いを得意ため、レイモンド達は旧××神社の本殿に着いた。

 本殿は境内と比べ乱雑で、埃っぽい。

 女性を象った像の傍には古い紙束が散乱している。

「ん? なんだ、この像は」

 レイモンドはじっくり像を見てみたが、どんなものかは分からなかった。

「私も分からないわ……」

「ん? これは……」

 沙知子も像を見たものの、詳細は分からなかった。

 しかし、雷太だけは像の詳細が分かったようだ。

「何か知っているのか?」

「手入れされているようには見えないな。もしかしたら、君と関係あるかもしれない」

「オレと関係あるのか?」

「とにかく、像の奥に行こう」

「ああ」

 三人が像の奥へ進むと、本殿の裏、つまり山に通じる扉がある。

 扉を開けると、石畳の道が続いており、小さいが作りが細かい鳥居が見える。

 鳥居を通り、緩い山道を登ると、そこには立派な御神木があった。

「これが……旧××神社の御神木……」

「大きいわね……」

 雷太と沙知子は御神木に圧倒されるが、レイモンドは険しい表情で御神木を見つめる。

(あの御神木……黒く枯れているのか……?)

 どうやらレイモンドは、御神木からあの怪物に近いものを感じたようだ。

 あの像と関係あるのではないかと勘繰っている。

 そして、御神木の前には石造りの祭壇がある。

 雷太と沙知子はまだ呆然としているが、レイモンドは「すまない」と言って、一人で石造りの祭壇に向かった。


「あ、あれ? レイモンドさんは?」

「いない……どこに行ったんだ?」

 しばらくして我に返った雷太と沙知子は、レイモンドの姿がない事に気づく。

「もしかしたら、私達が気づいていない間に、一人で奥に行っちゃったのかも」

「まったく、レイモンドさんったら」

 雷太は呆れながらも、最後までレイモンドを信じて彼を追いかけていった。

 沙知子も彼の後を追いかけ、念のために竹刀を握り本殿に走っていくのだった。


「ああ、不快だ。何故こんな事になるんだ。絆が……絆が、呪いに勝とうとしている」

 その様子を見ていた青い傘の男が、悔しそうに顔を歪めている。

 人間は弱いはずなのに、その弱い人間が絆の力で結束しているためだ。

 呪いは、決して自力では解けないはずなのに。


 だが思い出してほしい。

 ラッコのクッキーの都市伝説では、あらゆるものへの不信感を抱き、自分すら信じる事ができずに自害しようとした者を絆の力によって救出したのだ。

 一人の人間は弱いが、決して無力ではない事が、この都市伝説によって証明されたのだ。


「……」

 一方、黒いフードの顔がない少女は、何も反応しなかった。


「レイモンドさん、こっちに行ったのか?」

「多分ね」

 場面は旧××神社に戻る。

 レイモンドが一人で本殿に行ってしまったため、雷太と沙知子が彼を追いかけていた時だ。

「……っ!?」

 あの怪物が再び雷太と沙知子に襲い掛かってきた。

 先程、レイモンドが追い払った怪物だ。

「僕達をここに行かせないつもりか!?」

「やるしかないわね……いくわよ、雷太君!」

 沙知子は竹刀、雷太は護符を取り、襲ってくる怪物を撃退しようとした。


「お前はこの世に存在するべきじゃない、滅せよ!」

「はぁぁぁっ!」

 雷太の護符で動きが止まった怪物を、沙知子の竹刀が一閃し、怪物はあっさり倒れた。

 実際のところ、この怪物は非常に弱かったようだ。

「なんだ……スカイフィッシュの方がよかったわ」

 沙知子は剣道を習った事があり、スカイフィッシュを撃退した事がある。

 流石に身体能力は人間の領域を出ていないが、それでもその実力はかなりのものだ。

「雷太君、ありがとう」

「……こっちこそ」

 雷太は妹を助けるのに精いっぱいで、誰かにお礼を言われると照れてしまう。

 沙知子はそんな彼を見て、微笑みを浮かべた。


「さ、早くレイモンドさんを追いましょう」

「レイモンドさん、無事でいろよ!」


 そして、レイモンドはとうとう本殿に辿り着いた。

「ここに……コトリバコの呪いを解くカギが……」

 コトリバコの呪いを解かなければ、啓介が呪いで死んでしまう。

 そのためには、新たな箱にその呪いを封印する必要がある。

 しかし、そうすれば、また新たな箱がコトリバコになってしまう。

 どうすればいいのか……レイモンドは困っていた。

(呪いを移せばこの箱の呪いは解ける。だが、また新たなコトリバコが誕生する。そうするしかないのだろうか)

 レイモンドは大人なので、呪いには仕方がないと割り切っていた。

 箱の呪いを別の箱に移せば、啓介は助かる。

 だが、その呪いは町に残ったままになり、また別の誰かが呪いに襲われてしまう。

 呪いを完全に断ち切る事は不可能だろうか。

 レイモンドがそう思った時だった。


「レイ……レイモンドですね……」

「!?」

 突然、レイモンドの目の前に、青い髪をした光り輝く女性が姿を現した。

 女性は神々しいこそあれ、敵意はなかったが、それでもレイモンドは恐怖して震える。

「私は、ゲルダ……。あなたの祖母にして、マリアの妹です……」

「……ゲルダ……それが、オレの祖母の名か?」

 レイモンドは一人で治療を行っていた。

 彼は、家族の事を全く考えていなかったので、いきなり自分の家族が現れるのは想定外だったようだ。

 ゲルダと名乗った女性は頷くと、レイモンドにゆっくりと話した。

「あなたは、一体何をしたいのですか?」

「コトリバコという都市伝説の呪いを解きたいんだ」

 レイモンドは率直にゲルダに要件を話した。

 自分の祖母がいるのなら、恐れる必要はないと。

「コトリバコ……なんと恐ろしい……」

 その言葉を聞いたゲルダは、悲しげな声を出した。

 人を傷つける都市伝説の呪いの中でも、より強い呪いを持っているからだろうか。

 レイモンドはコトリバコの呪いを解けるのか、自身の祖母からの答えを待っていた。

「……レイモンド、呪いは必ず解けます」

「ああ」

「そして……あなたに真実を話しましょう」

 ゲルダは、孫に真実を話すつもりらしい。

 例えそれがどんなに重いものであっても、レイモンドは覚悟して聞く事を選んだのだった。

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