第1話 新たな力
「いいわ……いきましょう、章吾。私が、滅ぼすから……!」
そう言って、有栖は「滅」の札を自らに使い、目覚めたばかりの超能力を自ら滅した。
この瞬間、有栖は大翔達と同じ、チカラを持たない普通の人間になってしまった。
(大翔は「滅」の札を使えるほど成長してない。バカ正直なくらいにバカ正直で、現実が見えていない理想主義者。だから、私が使わざるを得なかった。
でも、私としても、章吾を殺したくなかった。だからといって、チカラを使っても、チカラに飲み込まれてしまうだけ。だから、私は自らチカラを滅したのよ)
誰かを圧倒する強力な超能力はもうない。
有栖は、鬼が襲ってきても、彼らから逃げ切る自信があまりなかった。
しかも、目玉になった黒鬼は、今も章吾の傍についているという。
きっと、復活したらまた章吾を黒鬼にしようとしているに違いない。
そう思った有栖は、弟を守る力を求めていた。
本当はチカラに頼りたくなかったのだが、鬼は相手を言葉巧みに誘導するのだから、圧倒的な力で叩き潰すしかなかった。
(とはいったものの、超能力に代わる力って、この世界にはあるのかしら……?)
土曜日、昼食を食べ終わって午後2時。
有栖は桜ヶ島図書館に行って、あり得ないものに関する本を探していた。
本は桜ヶ島の伝承ばかりで、有栖が探したいものはどこにもなかった。
(章吾、私はあなたを信じていいの……?)
有栖は章吾を信じていたがあの一件があって以降、章吾に対する疑念が湧き出ていた。
また裏切って自分の傍から離れてしまうとなると、有栖は心配で心配でたまらなかった。
自分の弟を信じられないなんて情けない、と有栖は心の中で愚痴を吐いていた。
「何を困ってるんだい?」
すると、帽子を被った人物が、彼女の隣に座った。
身長は荒木先生よりやや低いくらいだが、華奢な骨格と整った顔立ちから、どちらかというと某J系に見える。
「図書館では静かにして」
「ごめんね、これでも静かなつもりだけど」
声は少し高かったが、落ち着いていた。
まさしく頼りになる大人、と言っていいだろう。
「鬼祓いの秘技以外にも使えるチカラってないかな、って思ったけど、全然見つからなくて……」
「それなら、こういう本を読んだらどうかな」
そう言って、その人物は立ち上がると、別の本棚へと向かっていった。
(何を探すつもりかしら……)
有栖がその人物をじっと見ていると、数分後にその人物は戻ってきた。
出した本は、「奇跡論」というタイトルだった。
有栖はその本をじっくり読んだ後、その人物と共に奇跡論の本をしまった。
「ありがとう。そろそろ帰りましょう」
「どういたしまして」
そして、有栖とその人物は、桜ヶ島図書館を出ていった。
「ちゃんと読んだけど、そもそも奇跡論って何?」
「ゲームとかでよくある『魔法』の事だよ。昔、占星術とか錬金術とかがあってね。全部、今の科学に繋がるものなのさ」
「へぇー……」
魔法はにわかに信じがたい事だが、科学に繋がると聞いたならばきっと、鬼から子供を守る事ができる。
もう鬼から逃げる必要はない、有栖はそう思った。
「でも、魔法は決して万能じゃない。ボクが言ってる『魔法』は科学の道にあったものに過ぎない。それでも、キミは魔法を信じるかい?」
その人物は真剣な表情で有栖に言った。
魔法は科学の道にあったもの、信じて使うためには覚悟が必要。
有栖にそう言い聞かせているのだろうか。
彼女はしばらく迷っていたが、数分後、真剣な表情でこう言った。
「……信じるわ。私は章吾の姉だもの。だから、私に魔法を教えて!」
「よく言った! キミは覚悟を決めたみたいだね。ボクが魔法使いとして魔法を教えてあげよう!」
その人物が魔法の師匠になってくれると聞いて、有栖は、ぱっと顔を明るくした。
「あ、そういえばあなたの名前、聞いてなかったわ」
「名前かぁ……名乗りたくないけどなぁ。でも、仕方ないか。ボクは仲宗根毬藻。いや、No.1って呼んだ方がいいかな。キミの名前は?」
「金谷有栖よ、よろしくお願いするわ。でも、あなた、ボクって言ってるけど」
「それは修行に関係ない事でしょう」
No.1こと毬藻は、ある秘密を隠しているようだ。
それを聞こうとした有栖だったが、毬藻ははぐらかしてしまった。
「さあ、有栖。魔法の修行をしよう」
「……そ、そうね」
そう言って、有栖と毬藻は公園に向かった。
こうして、有栖は魔法使いになるため、毬藻から修行を受けるのだった。
鬼祓いの秘技や超能力に代わる新たな力は、果たして、有栖の武器になるのだろうか。