第5話 ゾンビ襲来
有栖達は大急ぎで待機所を出ていき、いつの間にかゴミ捨て場の中に入っていた。
部屋の中には、死体が堆《うずたか》く積まれている。
「うっ……」
死体を見た全員が思わず口を塞ぐ。
子供には耐えられない光景のようだ。
「早くここを出ましょう……」
そう言って有栖が扉に手をかけようとすると、ゆっくりと死体と骸骨が動き出した。
どうやら、この死体と骸骨は、何者かに操られているようだ。
「ひっ!?」
「……私達を逃がさないなら、戦うのみよ」
「また戦うのか? もう俺の体力はないんだぞ」
「だからこそ、やられる前にやるのよ」
章吾が死ぬ前に、早めに倒さなければならない。
有栖を見た章吾は何とか立ち上がり、和也と孝司も彼女に続いて、スケルトンとゾンビを迎え撃った。
「確か、骸骨は打撃攻撃に弱かった気がするわ。今、持ってる石が効果的ね」
「そっか、サンキュ!」
和也が石をスケルトンにぶつけると、スケルトンはバラバラになった。
「ちょっとこのゾンビ、臭いなぁ」
「動く死体だからね」
孝司はゾンビの攻撃をかわしながら、ゴミ捨て場を出ようとするが、ゾンビはゆっくりと歩いて孝司を殴る。
「痛いっ!」
「大丈夫、孝司!?」
急いで有栖と章吾は孝司に駆け寄る。
あの時の鬼ごっこと同じだ。
「私が守るわ、あなたは下がって!」
「うんっ」
有栖は孝司を下がらせ、精神を集中し、呪文を詠唱する。
「ヘーアー・ヌーンアリフ」
有栖の指から酸が放たれ、ゾンビを攻撃する。
続けて章吾はゾンビを棒で殴り、最後に孝司がゾンビに石をぶつけて気絶させた。
「ぜぇ、ぜぇ……ギリギリだったわね……」
「ああ、有栖がいなかったら……俺達、マジで死んでたぞ……はぁ、はぁ……」
「ぜぇ、ぜぇ……魔法って、すげぇな……」
「ふぅ、ふぅ……ありがとう、金谷さん……」
息を切らす有栖、章吾、和也、孝司。
ただのスケルトン、ゾンビ相手に苦戦するのは、伊達にホラー世界でない事が分かった。
ともかく、この部屋には死体以外何もなさそうだ。
「骨折り損のくたびれ儲けね……」
有栖が呆れながら部屋を出ようとすると、部屋の傍に何か光るものが見えた。
「これは……!」
「待て、有栖! 罠かもしれないぞ!」
止めようとする章吾だったが、有栖はその光るものに近づいた。
彼女がそれを確認すると、それは先端に輝く宝石がついた長い木の杖で、「Marimo」という文字が刻まれている。
「杖? しかもMarimoって……」
その文字は、彼女には聞き覚えがあった。
自分に魔法を教えた、あの魔法使いだ。
「もしかしたら……」
あの魔法使いが持っていたものかもしれない。
それなら持ち主に返さなければ、と有栖は思った。
「Marimoって、阿寒湖の特別天然記念物の?」
孝司が有栖に質問すると、有栖は首を横に振った。
「違うと思うわ……これ、多分、誰かがなくしたものだと思、う……」
有栖が答えると、彼女の身体はぐらついた。
倒れそうになる有栖を、章吾が何とか助ける。
「大丈夫か、有栖」
「章吾こそ……大丈夫? そんなに怪我して……」
「……有栖が、そう言う、なら……」
章吾がそう言った後、有栖と章吾は倒れた。
「章吾!」
「金谷さん!」
慌てて和也と孝司は二人に駆け寄り息を確認する。
すぅ、すぅ、と小さいが息は立てており、二人はただ眠っているだけだった。
二人はほっと一安心して、二人を見守った。
「やっぱり、双子だから」
「寝顔は、そっくりなんだね」
和也と孝司は二人の寝顔を見て、にこりと微笑むのだった。
「……ん……」
「ここは……さっきの部屋か?」
しばらくして、有栖と章吾が起き上がる。
二人が最初に見たのは、和也と孝司の顔だった。
「あっ、和也、孝司!」
「びっくりした、驚かすんじゃない」
「ごめんよ……つい、寝顔が可愛くってさ。有栖、案外可愛い寝顔なんだよなー。もしかして、傍に大好きな弟がいるからか?」
「いつもはお堅い金谷君も、金谷さんの前だと綻んじゃうんだね」
「な、なっ……!」
「そ、そんなわけないでしょ!」
二人にそう言われた有栖と章吾は首を何度も振る。
有栖は、章吾が母親の次に大事にしている家族で、章吾は、有栖が一番大事にしている家族だからだ。
しかし、否定しきれていないところが、有栖と章吾らしいと言える。
「和也、これ以上二人をからかうのはやめようよ」
「そ、そうだな! ってそれより有栖、お前が持ってるそれ、なんだ?」
和也は有栖が持つ杖を指差す。
「これは大事なものよ。あなたには渡さないわ。それに、この杖は持ち主がいるみたいだし」
「つまり、落とし物なんだな。落とし物は交番に届けないとな」
「……持ち主は私が知ってるから、大丈夫よ」
有栖はそう言って杖をしっかり持つ。
もし、鬼に見つかって盗まれたら、大変な事になるので、この杖は必ず守らなければならない。
「もう大丈夫か?」
「ええ、もうすっかり平気よ」
寝ているうちに、すっかり傷は癒えたようで、有栖はゆっくりと立ち上がった。
章吾も、怪我が治ったので立ち上がり、和也と孝司のところに駆け寄った。
「さあ、脱出するわよ!」
「絶対に、黒鬼の生贄なんかにはならないぜ!」
「そういえばそうだったな」