第6話 キーブレードの勇者
ホムラとヒカリを仲間にした一行だったが、結界石を守る事はできなかった。
今まで一行が見つけた結界石のうち、破壊された結界石の数は六個中四個。
結界はどんどん弱まっていき、侵略者も恐らくチャンスを待っているだろう。
最後の七個目は、未開の地、フィデロ地方。
何が何でも結界石を守りたいと思っていたベルだったが、ここにきて、自信を無くしかけていた。
「カズヤ、どうして結界石を守れなかったの……?」
落ち込んでいるベルに対し、カズヤはやはり腕を組んで無愛想だった。
「結界石の事など、どうでもいい。だが、貴様らは甘すぎる。何故、徹底的にやらなかった」
「……!」
カズヤに言われたベルは気付いた。
強力な敵をちょうどの力で倒してばかりいたため、最後の力を振り絞って結界石の破壊を許してしまった事を。
「どんな手を使ってでも勝つ事を覚えるのだな」
「……カズヤ……」
カズヤはベルがドン引きするほど非道だったが、彼の言いたい事も一利あった。
世界を守るためならば、人道に反した事でもしなければならない。
カズヤはまさしく悪魔的な考えだったが、今のベルにとっては慰めだった。
「……ありがとう」
「フン……」
落ち込んでいたベルの表情に、活気が戻った。
ガーディアンとの戦いは激しかったので、魔法試験管の消耗も激しかった。
酸っぱい薬や渋い薬、塩辛い薬などを作り、傷ついた者を癒していく。
おかげで、魔法薬はあと1個しか作れない状態になっていた。
「私達は負けない。侵略者にもプレッシャーにも」
「ベルベル、元気になったんだね」
「とにかく、悪魔になっちゃえばいいのよ。あの男みたいにね」
ベルはカズヤから「徹底的にやれ」と言われた。
つまりそれは、邪魔者に対しては一切の慈悲を見せるなという意味である。
「みんな、気を付けて進むのよ」
ベルを先頭に、一行はフィデロ地方を進んでいく。
フィデロ地方は未開の地であるため、自然の猛威が襲い掛かる事になる。
ベルによれば、ここには七つ目の結界石と、最後のファイターがいるという。
「うっ、吹雪が……!」
先に進むと、いきなり吹雪が吹き荒れる。
魔物に襲われても、吹雪で視界が悪くなったため不意打ちを受けるかもしれない。
すると、吹雪が吹き荒れていながら、ホムラがヒカリの姿に変わる。
「あれ、ヒカりん?」
「魔物が吹雪に隠れて潜んでるわ……光属性に弱そうだから、私が来たの」
ヒカリが刃を構えると、吹雪の中から角の生えた黒い魔物が姿を現した。
「見た事がない魔物ね……でも、いけるわ」
ヒカリがいう通り、彼女のスピードは非常に速く、魔物はあっという間に消えてしまった。
「なんだかあっけなかったわね」
(いや、あんたが速いだけだろ……)
テリーはそう思いながら、フィデロ地方の過酷な環境を進んだ。
しばらく歩くと、進む道がウィードの群生地によって完全に塞がれていた。
「びっしりいるアルね……」
ウィードの群れを見てう~んと唸るミェンミェン。
こんなにたくさんの魔物を一掃できるのか、彼女は不安になったが、すぐに身構える。
「植物なら、炎が効果的だな!」
「ボクの魔法でみんなやっつけるよ!」
「俺についてきな!」
「斬り合いがありそうだ……」
「邪魔はさせないわよ!」
ミェンミェン、ガオガエン、アルル、セフィロス、テリー、ベルがウィードの群れを迎え撃った。
「フレアドライブ!」
「アイスストーム!」
「バーンナックル!」
「メガフレア」
アルルが吹雪を起こす魔法、ガオガエンとテリーが炎を出す技、セフィロスが爆発魔法を使い、ウィードの群れを一掃した。
「こんなに寒かったら、しもやけを起こしそうだよ」
アルルは自分の両手を見ながら言う。
吹雪が吹いて氷の魔法も使ったため、アルルの手は赤くなっていた。
「ちょっとは温まらなくちゃね……あちち!」
アルルがガオガエンの傍に寄ろうとしたが、うっかりベルトに身体が触れてしまう。
「おれのベルトに触ったら火傷するんだよ」
「それを先に言ってよ……」
「ぐぐぐ……」
先に進むにつれて、吹雪はさらに強まっていく。
アルルはガオガエンのベルトに触れないように、彼の近くで少しずつ温まっていく。
ヒカリはホムラの姿になって、皆を温めた。
「これだけ寒かったら、凍っちゃいそうですね」
「……」
「……」
(ありがとう、セフィロス、カズヤ)
セフィロスとカズヤは黙って一行の後ろを歩き、魔物がいたら容赦なく倒す。
彼らにとって、仲間も結界石もどうでもいい存在なのだろうが、とりあえずついていくだけでベルは感謝した。
「む……?」
ある程度歩くと、いきなり吹雪が治まった。
やはり未開の地だけあって、何が起こるか分からなかった。
一行の目の前に、いかにも動き出しそうな、巨大な石像が立っている。
よく見ると、石像の額には「emeth」と書かれてあった。
「……もしかしたら『e』の文字を削ればいいかも」
「フッ、なら俺の出番だな」
ゲッコウガは目にも留まらぬ速さで、石像の額に書いてあった「e」の文字を削り、「meth」に変える。
すると、石像は見る見るうちに崩れ去った。
「emeth(真理)からeを削るとmeth(死)……。古いゴーレムはこういうタイプなのよ」
ゴーレムはパワーもタフネスも桁違いで、まともにやり合うとまず壊滅する。
しかし、弱点さえ突けば、あっさりと倒れるのだ。
そして、多くの罠を避けて一行が先に進むと、逆立った茶髪の少年が、鍵の形をした剣を持って魔物に立ち向かっていた。
彼と対峙している魔物は、漆黒の甲冑と真っ赤なマント、禍々しい剣と自身と同じ顔の形の盾を携えていた。
「あれは……呪われた騎士よ」
「呪われた騎士?」
「戦いに敗れた騎士達の怨念が作り上げた魔神よ。あんな子が一人でこいつに挑むなんて無謀だわ。助けに行きましょう!」
「ちょっと待て、ベル! 俺達を置いていくな!」
そう言って、ベルは魔物の方に走っていった。
カービィ、テリー、ガオガエン、ゲッコウガも、慌ててベルの後を追いかけていった。
「! お前達は!?」
鍵の剣を持つ茶髪の少年と、大鎌を構えたベルの目が合う。
少年は一瞬動揺したが、すぐに鍵の剣を構え直す。
「助太刀するわ、あんたも戦うわよね!?」
「もちろんだ!」
ベル達は少年と共に、呪われた騎士と戦った。
「カズヤは言ってたわ、容赦なくやれってね!」
「いっくよー、ハンマー!」
カービィは呪われた騎士に向かってハンマーを振り回し、大ダメージを与えた。
呪われた騎士にカービィの攻撃は効果的で、体力は八割近く減らせた。
「周りの雑魚はやっつけたぜ!」
少年は高く飛び上がり鍵の剣でゾンビを切り刻み、ファイガで焼き尽くした。
「カズヤは全力でやれって言ってたわ……。みんな、渾身の一撃であいつを攻撃するのよ!」
「ああ! ライジングタックル!」
テリーはタックルを食らわせようとするが、呪われた騎士は飛び上がって攻撃をかわす。
ゲッコウガに容赦なく剣を振り下ろし反撃した。
「でいやあぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……!」
ガオガエンとゲッコウガは渾身の一撃を繰り出すが呪われた騎士にかわされてしまう。
「かわされるなら、かわされなきゃいいだけだ!」
少年は二匹の前に立って鍵の剣を構える。
「待って、容赦なくやらなきゃ結界石が壊れるわ!」
「容赦なくって……どうやって!?」
「ありったけの憎しみを込めるのよ!」
「そんなの無理だよ、俺にはできない!」
少年が元いた世界では、憎しみなどの負の感情から魔物が誕生してしまう。
なので少年が憎しみを持ちたがらないのは当然だ。
「しょうがないわね……私と協力して!」
ベルはそう言って少年の手を掴み片手で鎌を持つ。
少年は訳が分からないまま、鍵の剣を構え直す。
「「ダークファイガ!!」」
「グゴオオオオオオオオ!」
二人がそう叫ぶと、ベルの手から闇の波動が、少年の手から燃え盛る炎が飛び出し、それが混ざり合って闇の炎の球になり、分裂して呪われた騎士に放たれる。
呪われた騎士に闇の炎が命中し、呻き声を上げ、そのまま呪われた騎士は消滅した。
「やった! 結界石を壊されなかったわ! カズヤ……あんたの言う通りにしたわよ」
呪われた騎士が消滅した事で、七つ目の結界石を守る事に成功した。
これで、侵略者が来ても撃退が可能になるだろう。
「結界石って……なんなんだ?」
ベルの言葉に、少年は首を傾げる。
「あんたにはまだ説明してなかったわね。私達は世界の結界……簡単に言えば、バリアを構築してる石を探してたのよ」
ベルは少年にこれまでの事情を説明する。
結界石は七つのうち四つが破壊された事、道中でファイターを助けた事などなど。
ファイターという言葉を聞いた少年は何かに気づきベルに赤い封の白い手紙を見せた。
「これって、ファイターパスじゃない! じゃあ、あんたが最後の……」
「そう! 俺が第五紀最後のファイター、ソラだ!」
ファイターパスを見て驚くベルに対し、少年が満面の笑みを浮かべて自己紹介した。
どうやら、彼がこの世界に来る事は、ベルには内緒にしていたらしい。
「確かあんたとパックマン、初めて会う気がしなかったわよね」
「ま、まあな」
ソラとベルは他愛ない会話をしていた。
とてもここが、未開の地とは思えないほど、ソラとベルの会話は弾んでいた。
「さあ、後は戻るだけよ」
「ファイターは全員揃ったしな、みんなと乱闘したいぜ」
ソラ、ベル、カービィ、テリー、ガオガエン、ゲッコウガはベルの力を使ったテレポートで皆のところに戻った。
その後、皆でフィデロ地方を歩き、リフーダ地方に戻ろうとした。
相変わらず過酷な環境だったが、呪われた騎士を倒したおかげか、魔物の姿はどこにもなかった。
「な、何これ!?」
「ぐぐー!?」
そして、リフーダ地方に辿り着いた一行だったが、アルルとカーバンクルは驚愕した。
スマブラ屋敷の周辺を魔物が取り囲んでいたのだ。
しかも、道中にも魔物がたくさんいて、ベル達を通すつもりがないようだ。
「結界石が壊れて結界が弱くなったから、魔物がこの地方に襲い掛かって来たネ!」
「早くスマブラ屋敷に行きましょう!」
一行は魔物を倒すべく、身構える。
「きっと侵略者がいるはずだわ……。私、カービィ、シャドウ、テリー、スティーブ、アルル、ソラは侵略者を探すから、あんた達は先に魔物を倒して!」
「ああ!」
「……フン」
ミェンミェン、シルバー、セフィロス、カズヤ、ホムラとヒカリに魔物の軍勢を任せて、ベル達はこの世界の侵略者を探していく。
魔物の数は多く、強いが、伊達に灯火の星異変で活躍していないとばかりに魔物を薙ぎ払った。
「わたくしも たたかえますよ」
遠くにいる魔物は弓矢、近くの魔物は剣で払う。
スティーブも伊達に戦闘慣れしていないようだ。
「うまぞうだなあ」
「うわぁー!」
「そこか!」
アルルに巨大な鬼が襲い掛かろうとした時、シャドウが銃を発砲し、巨大な鬼は倒れる。
その姿は、テリーには見覚えがあるようだ。
「確か、こいつは妖怪腐れ外道だったな」
「侵略者を探すわよ、こいつさえ倒せば残った魔物は撤退するはずだから」
ベルは呆れながら侵略者を探す。
これだけの魔物を使役しているのだから、きっと、どこかに隠れているはずだ。
「……」
アルルは精神を集中し、敵がどこにいるか探した。
だが、これだけ魔物がいるために、侵略者がどこにいるのか分からない。
「駄目だ……どこにもいない……」
「そんな……」
「では わたくしに おまかせください」
「スティーブ、分かるの!?」
「はい」
スティーブは素材を採掘し、何かを作ろうとした。
そんな彼を仕留めようと魔物が襲ってくるが、カービィとテリーが蹴散らしてくれた。
「おい、まだ完成しないのか!?」
「もうすこしです まってください」
「すてぃーぶ~、がんばって~!」
カービィとテリーの気力が尽きそうになった時、スティーブの手にコンパスが現れた。
鉄と赤い石の粉でできたこれは、相手の位置が分かる優れものだ。
「できました!」
「やった! 早く侵略者を探すわよ!」
「こっちです!」
一行はスティーブのコンパスに導かれながら、この魔物を呼び出した侵略者を探す。
侵略者を倒せば、この世界に平和が戻るのだ。
「いたわ、あそこね!」
スマブラ屋敷の裏側に駆け寄ると、スティーブが持っていたコンパスが止まる。
一行はコンパスに導かれながら先に進む。
すると、小柄な体格をした、金髪碧眼の少年(?)が待ち受けていた。
「フフフ……」
少年(?)は年老いた含み笑いを浮かべている。
一見子供に見えるが、決して油断してはならない。
七人は真剣な表情で、少年(?)を睨みつけている。
「君が……いや、お前が……この世界を侵略しようとしてるんだな……」
「左様。我が名はゼート、この世界の支配者である」
ゼートと名乗った少年(?)は、世界の支配者を気取りながら言った。
しかし当然、七人は許すはずがなかった。
「この世界は乱れている……故に、我が粛清し、支配せねばならぬ」
「ふざけるな! この世界は誰のものでもない、みんなのものだ!」
ソラはゼートに対し怒りを露わにしていた。
様々な世界を渡り歩いてきた彼は、それを支配しようとするものを許さないのだ。
「そんなの、我の知った事ではない。この世界の支配者は我と決まっている」
「どこまでも平行線だな、俺達」
その方が楽でいいけどな、と付け足しながら、テリーはぐっと身構える。
「ボクは正義とか悪とか知ったこっちゃないよ。でも、今の日常を壊そうとする奴は、誰であっても絶対に許さない!」
「わたくしは このせかい だいじ だから あなた たおします」
「僕の邪魔をするなら、容赦しない」
アルル、スティーブ、シャドウも、ゼートを倒そうと身構えた。
そんな彼らの姿を見ても、ゼートは笑っていた。
「虫ケラどもに何ができるというのだ? 我はこの世界の支配者だぞ?」
「……偉そうな口を利けるのもそこまでよ。私は秩序の守り手、あんたみたいな自称支配者なんかに絶対負けないわ!!」
ベルはそう言って、大鎌をゼートに向けた。
ゼートは一瞬だけ怯んだが、すぐにベルを睨む。
「虫ケラが何を言おうが虫ケラと変わりない。結界がまだ完全に消えていないとはいえ、我の力は虫ケラよりも遥かに上回る。それを今ここで、証明してやろう!!」
そう言ってゼートは異空間を周囲に形成し、スマブラメンバーと連絡が取れないようにした。
どうやら本気でベル達を消そうとしているようだ。
ならば、スマブラメンバーは当然、それに応えなければならない。
「みんな、これが最後の戦いよ!!」
「虫ケラは我に跪くのだ!!」